2020年東京オリンピック競技大会を見据えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けたスポーツ医・科学的サポートの可能性

人生の目標、スポーツの目標を明確にし、 そのためのプロセスも具体化する。 〜『目標設定』は人生のイメージトレーニング〜

2016/10/27

高妻 容一 高妻 容一

引退を意識することからすべては始まる。

“やる気”の出し方を知っていますか?

「もっとやる気を出せ」。練習中によく聞く言葉だ。
しかし、そう言われた選手は果たして“やる気”が出せるだろうか。
残念ながら、何をどうすれば“やる気”が出せるのか、具体的な方法を知って実践している指導者や選手はとても少ない。それが日本のスポーツの現状だと高妻氏は言う。

「やる気というのは、心に火がついてメラメラと燃えあがり、自ら積極的に行動したいという心理的な状態です。これを内発的なモチベーションと言い、これを持っている選手の方が将来的に伸びることが各種のデータからわかっています。メンタルトレーニングは、この内発的なモチベーションを高めることをとても大切にしています」

対して監督に怒られるから練習をするというのは外発的なモチベーション。それは“やる気”ではなく“やらされている”だけだというわけだ。
では、内発的なモチベーションを高めるにはどうすればいいのだろうか。

スポーツを人生の中にどう位置付けるのか。

目標設定用紙(結果目標)
目標設定用紙(結果目標)

高妻氏は、キーワードは“気付き”だという。
その“気付き”を促すのが、心理的スキルの第1項目にあげられる「目標設定」だ。
「目標設定」を明確に行うためのツールも用意されている。高妻氏が1980年代に作成し、その後、延べ10万人もの選手が使用する中でブラッシュアップしてきたものだ。

まず選手には「目標設定用紙(結果目標)」に向き合ってもらう。
左の欄に「人生の目標」、右の欄に「スポーツの目標」を記入するようになっており、人生の目標から書き進めていく。まず1番上の夢のような目標から考え、途中を飛ばして書かないよう、50年後、30年後、10年後、5年後、1年後、さらに半年後、今月、今週、そして今日、今の目標と、時間を遡りながら、10分間でどんどん目標を落とし込んでいく。各競技のトップとして活躍している選手たちは、明確な最終目標、そこに至るプロセス目標も明確で、1年後、2年後に自分はどうなっていたいのか、最終的には何をめざすのかを考え、書き綴っている選手が多い。
だがこの「目標設定用紙」、先を見据えている選手はすらすら書けるのだが、そうではない選手はなかなか書けないと言う。

「最初はほとんどの選手が制限時間内で記入できず戸惑います。自分の親より上の年齢の将来なんて考えたこともないでしょうからね。でも、とにかく考えてもらうんです。夢のような目標でかまわない。オリンピックで金メダルを取ること、大歓迎。そして、50年後は孫にスポーツを教えているとか、30年後は教師や監督になっているとか。人生の目標とスポーツの目標がけっこう重なるんですね。そこで私は選手に投げかけます。君の人生にとってスポーツは1番目なの? それとも2番目3番目なの? すると選手たちは、スポーツをすることは自分の人生にも関わる大きな存在であることを初めて意識するようになります」

高妻氏はさらにたたみかけるのだという。

「じゃあ、人生の中で、いつスポーツ選手としてのピークを迎えるのがいいんだろうね? 何歳で引退するのかな? 現役の選手でいられるのはあと何年? 思っていたよりけっこう短いんじゃない?」

若い選手は引退なんて他人事だと思っている。意識もしていない。ずっと現役が続くものだと漠然と考えている。しかし、余命宣告を受けた患者さんが人生を真剣に生きるようになるのと同じく、競技生活にもタイムリミットがあることに気付けば、「このままではいけない」という危機感が生まれ、スポーツに向き合う意識、姿勢が変わる。
いわば人生のイメージトレーニングをしてもらうわけだ。1番上から書いた目標を今度は1番下から見直し、その目標をクリアしたら1段上の目標に近づくことができているか。つながった目標設定ができていれば目標達成は近い。