2020年東京オリンピック競技大会を見据えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けたスポーツ医・科学的サポートの可能性

万全のコンディションで試合に臨むためには いつ、何を、どう食べるべきか。 〜試合期の実践スポーツ栄養学〜

2016/12/27

岸 昌代

選手の食習慣を含むライフスタイルを見据えてサポート。

栄養サポートの入口はバレエダンサーの支援。

(C)NPO法人芸術家のくすり箱
(C)NPO法人芸術家のくすり箱

公認スポーツ栄養士として多方面で活躍する岸昌代氏は、当事業団の競技力向上テクニカルサポート事業において2009年よりカヌースラローム競技の栄養サポートを担当するなど、アスリートに寄り添い、具体的かつ実践的なアドバイスと指導を行っている。
元々は管理栄養士として大学病院や保育園、保健所に勤務し、公衆衛生の見地から社会に貢献していたが、自身のある経験から、栄養サポートが必要にもかかわらず、それがないままストイックに夢を追いかける人々に出会い、今の仕事に舵を切った。

「仕事の傍ら、趣味でクラシックバレエを続けていたのですが、レッスンしてくださる指導者の方などプロレベルのバレエダンサーたちの食事の実態を知るにつれ、なんとか力になりたいと思うようになりました」

バレエダンサーは芸術家であっても演じる作品によってはアスリートさながらの身体能力が求められ、日々の厳しい鍛錬によって強靱かつ柔軟な肉体をつくりあげている。にもかかわらず食に関しては優先順位がとても低かったのだという。スタジオには食事をとるスペースもないし、公演前は食事も取らずに遅くまでリハーサルで、テーパリング(本番前に練習量を減らすこと)とは反対にぎりぎりまで追い込むダンサーが多かった。
そこで岸氏が着目したのがスポーツ栄養学だった。身体活動量が多い対象者を栄養サポートするという観点から共通点が多いと考えたからだ。そこで意を決して大学院に入学。スポーツ栄養学の第一人者、田口素子氏のもとでスポーツ栄養学を学び、『公認スポーツ栄養士』の資格を取得した。これまでの経験を活かすため、岸氏はスポーツのみならず芸術家へのサポートも継続して行っている。

「先日のリオ・オリンピックの閉会式で次期開催地の東京をアピールする場面に、かつて私がサポートしていた男子新体操の選手がパフォーマーとして出演していました。ジャンルは違いますが、ダイナミックな演技ができるのは、普段(過去)の食事法の成果でもあるので、スポーツ栄養学はあらゆる方面において可能性を秘めているということを改めて実感しました」

パフォーマンスを向上するのは栄養素ではなく“食”。

高みをめざして頑張る人たちのサポートをしたい、支えたいという動機で公認スポーツ栄養士となった岸氏だけに、アスリートを見つめる目は温かく、栄養素ではなく“食”でパフォーマンスを向上してほしいという思いが強い。

「よく栄養士だから栄養素の話でしょうと思われがちなのですが、栄養素の話で終わってしまっては味気なく、肝心の食事がおいしくなくなりますよね(笑)。選手の食習慣を含むライフスタイルを見据えてサポートするように心掛けています」

だから出発点はあくまでも選手の競技上の目標に置くのだという。目標に対して食事をどう位置付けるのか。食事をどう変化させれば、体づくりやパフォーマンスにどんな影響があるのか。選手と一緒に考え導いていく。今後の競技生活に結びつくアドバイスとするため、選手から本音を引き出す努力や工夫も惜しまない。

「例えば体型を維持しなければならない競技だったり、体重別の階級制の競技だったりした場合、選手によっては食べることに罪悪感を持っていて、本当のことを言ってくれません。以前、プロを目指すバレエダンサーの研修会では、食べても大丈夫な補食を用意してティータイムをセッティングしたことがあります。お茶を飲みながらのおしゃべりから、食べてはいけないわけじゃないんだよという話をすると、徐々に打ち解けて本音が聞けるようになりました」

また、食べることは栄養素を補給するだけでなく、休息やリラックスの場であったり、コミュニケーションの場であったりもするわけで、栄養素以外のエネルギーを補給できる大切な場でもある。

「我慢や罪悪感を感じる食事がカラダにいいわけないですよね。栄養サポートにおいても、おいしく楽しく食べていただくのが基本です」