2020年東京オリンピック競技大会を見据えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けたスポーツ医・科学的サポートの可能性

気持ちはトレーニングで コントロール可能になる。 〜『理想的な心理状態(ゾーン)』をつくりだす〜

2017/09/11 NEW

高妻容一 高妻容一

最高のパフォーマンスが発揮される「ゾーン」。

「ゾーン」とは?

イラスト版やさしく学べるメンタルトレーニング入門者用54P参照
イラスト版やさしく学べるメンタルトレーニング入門者用54P参照

「ゾーン」(あるいはフロー)という言葉を聞いたことがあるだろう。ゾーンに入ったときの感覚をトップアスリートたちは以下のような言葉で語っている。
・全く疲労感を感じなかった
・宇宙との一体感を感じた
・遊離観を覚えた
・無意識、自動的にプレーができた
・誰かが手伝ってくれた感じがした
・知覚が高揚したようだった
・時間がゆっくり感じた、相手の動きが止まって見えた
似たような経験をした人も多いのではないだろうか。ゾーンとは選手が本来持っている能力を最も発揮できる理想的な心理状態のことで、俗に“火事場の馬鹿力”とも言われる。人の行動は心に支配されている。緊張し過ぎても体は動かないし、リラックスし過ぎても力が出せない。適度な緊張とリラックスの状態のときに100%(ときには100%以上)の実力が出せるのだ。
オリンピックで金メダルを取るようなトップ選手たちを対象にした調査では、驚くべきことに79%もの人が、自ら意識的にゾーンに入ることができると答えている。まさにトップアスリートたる所以だろう。ゾーンの状態をつくる要因も研究によって解明されている。

「こうした研究を基に、誰もが意図して理想的な心理状態になれるように、実技・スキル・テクニックとして開発されたのがメンタルトレーニングなのです。いつでもどこでもゾーンに入ることができれば、いつでもどこでも最高のプレーができますよね」

実技だから普段からトレーニングできるし、日々繰り返すことで、習慣化・自動化ができる。気合いや根性論ではメンタルは決して強くならない。気持ちや感情をコントロールできる者が強くなれるのだ。

心理的スキルで意図的に「ゾーン」に入る

高妻氏は、8つの基本的な心理的スキルを組み合わせ、効果的にメンタルトレーニングを行うためのプログラムを提唱している。今回取り上げる『リラクセーションとサイキングアップ』は、いわば興奮のレベルをコントロールするための心理的スキル。つまり、適度な緊張とリラックスの状態をつくりだし、ゾーンへと導く重要なスキルとなる。

「トップクラスの選手ほど自分の気持ちをうまく調整(セルフコントロール)できることがわかっています。例えば、試合前にプレッシャーを感じたときに、そのプレッシャーを良い緊張感へと切り替えられるのです。そのときに使う心理的スキルが、リラクセーションとサイキングアップです。リラクセーションによってプレッシャーのかかる場面で平常心を保つことができ、サイキングアップによって実力を発揮する気持ちのノリをつくれます」

重要なのは、リラクセーションとサイキングアップはセットで行わなければ本来の意味を成さないということ。リラクセーションで心を落ち着けて集中し、無心の状態を一度つくってから、サイキングアップでやる気を高め、気持ちをのせる。リラクセーションは心のストレッチ、サイキングアップは心のウォーミングアップと捉えると切り離せないことがわかるだろう。
ただし、試合でこの心理的スキルを使うには、何度も繰り返しトレーニングし、完全に自分のものにしなくてはならない。「知っている」と「できる」は違うからだ。普段の練習にリラクセーションとサイキングアップなどを取り入れれば、練習の質を格段に高めることもできるし、心理的スキルも身につく。

「野球を始めて3年でプロ選手になることができないように、リラクセーションとサイキングアップの本質をつかみ、いつでもどこでもできるようになるには、最低3年はかかります。でも、導入することで効果は比較的すぐ出ます。最近では、或る県の或る競技の女子高校チームが2年連続インターハイ優勝及び春の選抜大会も優勝しました。また2年間メンタルトレーニングを実施したチームが国際大会でも優勝しました。」

リラクセーションとサイキングアップには20分ほど要する。それを嫌って導入を見送るチームもあるが、2時間ほどの練習時間の内30分をメンタルトレーニングに割いた或る高校の野球部は、5年間で3回甲子園に出場するまでになった。心・技・体の三位一体でトレーニングを実践した成果であることはいうまでもなく、練習の質が間違いなく高まるのだ。