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万全のコンディションで試合に臨むためには いつ、何を、どう食べるべきか。 〜試合期の実践スポーツ栄養学〜

2016/12/27

岸 昌代 岸 昌代

特別な食事はない。あくまでも普段の食事が基盤。

「食事の基本形」は変えずにエネルギー量を調整。

では、試合期における食事はどうあるべきなのか。公認スポーツ栄養士から見て大事なポイントを聞いていく。まず前提となる基本的な考え方から伺った。

「試合で力を発揮するためには、試合期に至るまでの普段の食事とトレーニングが基盤になります。普段のトレーニングでできなかったことが試合でできないのと同じで、食事においても試合前だけ食べ方を変えたり、いつもと違う特別なものを食べたところで、よい結果が出るわけではありません。試合前だからと変わったことをすると、かえって調子を崩すことにもなりかねません。ですから、普段の食事をもとに、試合前のトレーニング量に合わせてエネルギー量などを調整していくことが、コンディションの調整につながります」

岸氏には苦い経験もあるのだという。選手、指導者とも栄養サポートを受けた経験の少ないチームから、試合前の食事はどうしたらいいかと聞かれ、いくつかのアドバイスを返したのだが、後に試合の成績を聞くと期待に反して残念な結果だった。食事が原因とは限らないが、栄養サポートを継続して受けていなかったこともあり、アドバイスした内容が普段と違う「試合前の新たな試み」となってしまい、いつものペースを乱してしまったのではないかという危惧を岸氏は持った。ナーバスになる試合前だからこそ、普段通りが基本というわけだ。

普段の食事を改めてあげておこう。伝統的な和食の取り方である「主食」「主菜」「副菜」「乳製品」「果物」の組み合わが公認スポーツ栄養士がオススメする「食事の基本形」だ。これは一部の競技でいうところのフォーメーションに匹敵する。体調を整えるという意味では、試合の1カ月くらい前から、意識して副菜や果物からビタミン類をとるように心掛ければよいし、試合に向けて練習量を減らしていくようであれば、それに合わせてエネルギー量を減らしていけばいい。

遠征の場合は事前に計画を立て、食事をリクエスト。

食事の環境を整えることも大事だという。何故かというと、試合のために遠征する場合、どこでどのような食事をとるのかを考え、事前に計画を立てることが大切であるからだ。また宿泊先(ホテル、旅館等)で食事を提供される場合、食事の時間はトレーニングのタイムスケジュールに合わせて変更できるのか、メニューはリクエストできるのかなどを確認し、調整しておく必要がある。

「事前にリクエストを出しておけば応えてくれる施設も増えていますし、栄養サポートを行う私たちが直接、確認しながらやりとりをする場合もあります。ここでも食事の基本形を揃え、選手が自分の身体に見合った量が選択できるようにしてもらうことが大切です。ごはんの量を調節するためにおかわりができるようにしてもらったり、ビュッフェスタイルであれば、選手自身が盛り付ける料理や量を調節できるようにポーションサイズを小さくしてもらうなどのお願いをします。ホテル、旅館の場合、一般的には油を使った料理が多くなりがちなので、油を控えてもらった方がいいですね」

食中毒のリスクがあるので刺し身などの生ものはとらないのが原則だ。宿泊先や試合会場の周辺の情報もチェックしておけば、スーパーやコンビニを利用して補食を調達することもできる。特に海外遠征の場合、食材や食習慣が異なるため、事前の確認が不可欠となる。岸氏は遠征先の国の日本大使館で情報収集をしたり、関係のある商社に駐在員を紹介してもらって現地の飲食店の情報を聞いたりしているそうだ。
また、遠征に持っていく物のリストを作成することも有効だという。海外遠征にパックのごはんや即席味噌汁を持っていく選手もいるが、普段食べている食材や好物は気持ちを静めてくれ、モチベーションを高めてくれる。

「食べ物に限らず持ち物をリストアップするのってワクワクしますよね。試合前はそれが大事だと思うんです。食材が手に入るところを確認するときも、遠征先の地図を眺めてちょっと行ってみたいな、見てみたいなという場所を発見したりするとワクワクしていいと思います」

精神状態で体調も変わるだけに、食事を含めて試合に臨む環境を整え準備する、楽しみながらモチベーションを高めていくというスタンスが重要というわけだ。