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コーチが変われば環境が変わり 環境が変われば選手が変わる。 〜指導者のあるべき姿とは〜

2017/02/13 NEW

伊藤 雅充 伊藤 雅充

型通りのトレーニングで選手は進歩するか?
あなたはあなたのコーチングを受けたいか?

あなたは即興で的確な指導ができますか?

何が正しいコーチングかわからないというのは、即ちコーチングに定型はなく、柔軟であるべきだということでもある。コーチング学では、「コーチングとは混沌の中で行われる構造的な即興である」と言われている。つまり、コーチングとは、決められたメニューや方法をただ行うのではなく、その状況下で起こったことを的確に読み取って、構造化された即興をすることである。構造化された即興とは何かというと、コーチが持っているそれまでの経験と学びから、この選手を伸ばすにはこのやり方がいい、こういう場合はこうした方がいい、という方法を即座に取捨選択し提示することだ。経験や知識が豊富なら選択肢も豊富で、よりよい即興が可能になるし、自ら学び、オプションをたくさん持っているコーチほど、即興を得意とする。

「選手に今、何を言うべきか、何を考えさせるべきか、選手を見てたちまちアイデアやイメージが湧いてくるということです。例えば、プロのピアニストやダンサーは突然のリクエストであっても素晴らしい音楽を奏で、舞い踊ることができますが、それは構造化された知識を持っているから即興もしっかりできるのです。毎年、毎シーズン、毎回、パターンを踏襲してあらかじめ決めた通りのことをやらせるのは簡単だし、とても楽です。しかし、それは選手に勝手に成長しろと言っているのと変わりません。しかし、選手に寄り添い、即興をしようと思ったら、普段どれだけ勉強しているか、どれだけいろいろなことに興味を持ち、引き出しを増やしているかが重要になります。そう考えると、即興の能力というのが、実はコーチング能力そのものだと言うこともできます」

だからこそコーチはずっと勉強し続ける必要があるわけだ。

自分がコーチングしている姿を録画して見れば一目瞭然。

そうは言っても、自分がどのようなコーチングをしているのか、選手に対してどういう振る舞いをしているのか、客観的に振り返ることは難しい。そこで伊藤氏の研究室では、「アクション・リサーチ」という手法を取り入れている。スポーツの現場で実際にコーチングする姿をビデオ撮影して、それをコーチ本人を含み、研究室のメンバーで見ながらディスカッションするというものだ。コーチにはあらかじめワイヤレスマイクをつけてもらい、音声もしっかり録音されるように録画する。主な対象は、コーチとして活動しながらも、もっといいコーチングをしたいと伊藤氏のもとで研究活動を行っている大学院生だ。
ディスカッションでは、気付いたことを気楽に指摘していく。例えば選手に声掛けをした場面ですぐに目線を外していれば、「言いっ放しになっている。選手が理解できたと確認できるまで目線をはずさないようにした方がいい」と意見がとぶ。声掛けの内容やタイミング、言葉の選択、目線、立ち位置など、細かいところまで改善点をあぶり出していく。

「私も自分の講義の様子を録画して見直すことをしています。他の人に指摘されないと気付かないことも多いですが、自分だけで見ても、こうした方がいいという修正点が見えてくるし、練習中にこんなことが起こっていたのか、全く見えていなかったという発見もあります」

自分の姿を見ることに抵抗を感じる人も多いと思うが、できるだけ感情を抜きにして、距離感を持って全体をのんびり見るようにすることがコツだという。
一方的に教えていないか、選手に考えさせているか、選手のことを知ろうとしているか、オープン・クエスチョンをしているか、わかりやすい説明ができているか、選手をリスペクトできているか、褒めているか、自分だったらこういうコーチの指導を受けたいか、選手たちはイキイキとした表情をしているか、などなど。そこには想像以上の気付きがあるだろう。またコーチがそのチームのNo.1ではない場合、コーチが指導しやすい心理的に安全な環境を作ることが大切だという。その仕事は、コーチを育成する側、すなわちコーチ・デベロッパーの腕の見せ所だ。