2020年東京オリンピック競技大会を見据えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けたスポーツ医・科学的サポートの可能性

メンタルの強化で選手はもっと強くなる。 〜競技力向上のためのメンタルトレーニング〜

2016/03/29

高妻 容一

メンタル面が弱いのはトレーニングをしていないから。

宇宙飛行士の訓練からオリンピック選手の強化へ。

メンタルトレーニングが最初に行われたのは旧ソ連。まだ誰も行ったことのない宇宙への不安や死への恐怖を克服すべく、宇宙飛行士の訓練に取り入れられた。スポーツ分野で本格的に活用したのは、旧ソ連や東欧諸国、その後、ロサンゼルスオリンピック(1984年)を前にした、アメリカとカナダ。その成果はメダルの獲得数となって表れ、メダルを手にした選手たちがメンタルトレーニングの効用を主張したことで世界的に注目が集まった。高妻氏は、80年代のアメリカ留学中にこのメンタルトレーニングと出会い、衝撃を受けたという。

「スポーツ心理学の研究のために留学していたんですが、大学院でディスカッションすると必ず聞かれるんです。日本のスポーツはどうなのと。日本の現状を伝えると、〈そうか、アメリカも30年前はそうだったよ〉と軽くいなされる。そんなに遅れているのかとショックを受け、なんとかしなくてはと思いました。以来30数年、日本を世界レベルにしたいという思いは今も変わりません。いまだに追いついていませんからね」

ロサンゼルスオリンピックで日本は、期待したほどの成績を残すことができず、特に陸上競技ではほとんどの選手が自己新すら更新できなかった。マスコミからは〈日本人はメンタル面が弱い〉と酷評された。

「実際は、日本人のメンタル面が弱いのではなく、アメリカなど海外の選手やチームは、すでにメンタル面の強化をしていたのです。日本は技術・体力面の強化はがんがんやっていたけれど、メンタル面に関しては何もしていなかったんです」

そうした海外の状況をみて、メンタルトレーニングが日本に輸入されたのが1985年。日本体育協会のスポーツ医科学研究において様々な研究が行われるようになったが、高妻氏は研究と並行して現場での実践を重視。海外の最新の知見を貪欲に吸収しながら、現場で重ねた事例も取り入れながら、日本におけるメンタルトレーニングのメソッドを構築してきた。

大事な試合の本番で実力を発揮するために。

確かにメンタルトレーニングという言葉は広まっている。その効用やアドバンテージも知識としては知られているだろう。しかし、オリンピックや世界選手権といった大舞台で、メダルを期待された選手がメダルを獲れなかったという話は今も珍しくない。番狂わせ。強豪校の予期せぬ敗退。プロ野球の世界ですら、専属のメンタルトレーニングのコーチを置く球団はまだないという。

「日本のスポーツの指導者たちは、みなさん技術の専門家なんですね。現役時代にメンタルトレーニングをした経験もありません。自分が経験していないものを取り入れるのは非常に勇気がいることだと思います」

高妻氏がメンタルトレーニングを導入する場合、まず選手たちに『スポーツ心理テスト』を行ってメンタル面の強さを分析するのだが、〈心・技・体の中で試合で重要なのは何ですか?〉と聞くと、ほとんどの選手が心・技・体の順番で上げるのに、〈では毎日の練習はどうしていますか?〉と問うと、技・体・心の順番になってしまい、心に関しては、指導者が〈気合いを入れろ!〉と叫んでいるだけという実情が浮かびあがる。

「指導者は結果が出ないと、〈どうしていつもできることが試合でできないんだ〉と説教をし、選手の責任にしてきたんです。もちろん、メンタル面の強化を怠ってきた指導者に責任があるのですが、指導者もどうして実力を出せないのかがわからないんですね」

メンタル面強化の重要性を理解していなければ、実力を出せないだけでなく、優秀な選手の芽を摘むことにもなりかねない。

「日本の競技スポーツにおいてよく見られるのが、怒られるからやる、ご褒美がもらえるからやるという選手の姿勢です。これを外発的なモチベーションといって、選手は“やらされている”ので、やがて行き詰まってつぶれてしまいます。対して、心の底からスポーツが好き、上手くなりたい、試合で勝ちたい、チャレンジすることが楽しいという内発的なモチベーションを持った選手はトップレベルまで駆け上がる。これは様々な研究から明白です」

メンタルトレーニングには、選手の目的意識を明確にして、やる気を引き出す。技術・体力面のトレーニングとの相乗効果も大きい。だからこそ、「私たちのようなメンタルトレーニングの専門家を活用してほしい」と高妻氏は訴える。