2020年東京オリンピック競技大会を見据えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けたスポーツ医・科学的サポートの可能性

メンタルの強化で選手はもっと強くなる。 〜競技力向上のためのメンタルトレーニング〜

2016/03/29

高妻 容一

プラス思考を身につけるための習慣はすぐ始められる。

メダリストたちも実践する8つの基本的な心理的スキル。

メンタルトレーニングでは具体的に何をするのか。高妻氏は以下の8つの基本的な心理的スキルを上げている。これらをプログラム化して、より効果的にトレーニングすることがメンタルトレーニングだという。

1)やる気を高める目的で行う目標設定(プラン作成や練習日誌なども含む)。

2)プレッシャーのかかる場面でセルフコントロールするためのリラクセーションや試合での気持ちののりや闘志を高めるためのサイキングアップ。

3)いかにして自分の最高のプレーをするかのイメージトレーニングや新しい技やフォーメーションを上手く身につけるためのイメージトレーニング。

4)試合で爆発するような集中力を高めたり、集中していい練習をするための集中力のトレーニング。

5)好きなスポーツをいかにして楽しむか(苦しい練習をいかにして楽しくするか)のプラス思考。コーチは選手に上手くなってほしいからアドバイスをしてくれていると考えて人間関係をよくする、練習に前向きの気持ちをつくるプラス思考のトレーニング。

6)自分の気持ちを高めたり、ミスした後に気持ちを切り替えたりするためのセルフトーク(自己会話・言葉遣い・声の出し方・普段の会話など)のトレーニング。

7)コミュニケーションのトレーニング:チームワークや人間関係向上。

8)試合で勝つための徹底した準備としての試合に対する心理的準備。

これらの心理的スキルは、オリンピックのメダリストたちが共通して実施していることを研究した結果だ。一流のアスリートはいかにして一流になったのか。その核心と言えるだろう。

「もちろん書籍やDVDで勉強することはできますが、メンタルトレーニング指導士の資格(日本スポーツ心理学会認定)を持った専門家から指導やサポートを受けるとより効果的にトレーニングができます」

呼吸のコントロールによって体と心をコントロールする。

心理的スキルのトレーニングを実施する場合、肝心なのは“呼吸”だという。

「私は、呼吸こそがメンタルトレーニングの命だと思っています。ですから、プログラムの中では呼吸法を非常に大切にしています。例えばリラクセーションを行う際には筋弛緩法も使うのですが、呼吸と体の動きを一致させ、心をコントロールする前に、体をコントロールしていきます。心を落ち着けなさいと言われても、なかなかできませんよね。だから、まずは筋肉から落ち着けさせて、体全体を落ち着かせる。そして、心まで落ち着けさせて、集中させる。なぜそうするのか、その理由も理解しながら、きちんとプロセスを踏んでいくことが大事です」

人間は、頭の中に邪念、不安、雑念が入ると、そのことに気をとられて呼吸が浅く速くなる。すると筋肉の動きが微妙にずれて、いつもと違う動きになるからミスをしてしまう。琴奨菊関、五郎丸歩選手、イチロー選手らが行うルーティーンは、平常心を保ち、集中力を高めるためのものだが、そのカギは呼吸を安定させることにあるのだ。
最後にメンタルトレーニングを本格的に導入する前に、今すぐできることはないか、高妻氏に聞いた。

「一番お勧めで、すぐにできて、でも一番難しい方法があります。普段から物事をプラスに考える思考を身につけるための習慣です。まず、人には笑顔で接すること。〈ありがとう〉と感謝の言葉を素直に言うこと。そして、いつも自信のあるポーズをとってください。上を向いて、胸を張る。肩も足も大きく開いて立つ。歩くときも大股で。不思議なことに本当に自信がみなぎってきますから。うなだれて、肩をすぼめたポーズをとっていると実際に元気がなくなってしまいます。それから口にする言葉は、独り言も会話もすべてポジティブにし、あいさつは、強く、大きな声で、語尾を上げる。これで呼吸をコントロールできるんです。ぜひやってみて習慣化してください。驚くほどすべてが変わりますから」

メンタルトレーニングで日本の選手を世界のトップレベルへ──。その思いを胸に様々な活動を続けてきた高妻氏の視線は、今、2020年の東京オリンピックに向けられている。集大成の場であり、大きなステップアップの場。今こそ、メンタルトレーニングが求められている。