東京2020オリンピック・
パラリンピック競技大会を終えて

世界で活躍するアスリートの育成に向けた
スポーツ医・科学的サポートの可能性

2018/12/26

シリーズ 女性アスリートを支える 第1回(全3回) 女性アスリートと無月経と骨折~エネルギー不足からはじまる重大トラブル~

シリーズ 女性アスリートを支える 第1回(全3回) 女性アスリートと無月経と骨折~エネルギー不足からはじまる重大トラブル~

女性アスリートにとってジュニア期、とりわけ小学校高学年~高校時代は、身体的にも精神的にも大きく発育・発達する期間である。この時期にからだの仕組みを正しく理解することは、パフォーマンスを向上する上でとても大切であり、逆に知らないまま競技を続ければ、選手生命や人生そのものに関わる問題が発生しかねない。女性アスリートを指導する者にも必須の知識である。今回はその基礎編として月経の基礎知識と無月経アスリートの問題点を婦人科スポーツドクターの高尾美穂氏に聞いた。

高尾 美穂

高尾 美穂(たかお・みほ)

産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター イーク表参道(女性のための統合ヘルスクリニック)副院長 日本スポーツ協会公認スポーツドクター 得意分野は女性スポーツ医学。文部科学省・国立スポーツ科学センター(JISS) 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー

婦人科スポーツドクターとして、競技を問わずプロからアマチュアまで女性アスリートのメディカルサポートを行う。自身もスポーツが大好きで様々な競技を行ってきた経験から、女性アスリートのパフォーマンスを向上するための条件や環境について婦人科学の立場から考えてきた。国立スポーツ科学センターの活動では、女性アスリートにおけるジュニア期、妊娠中および産後期におけるメディカルサポートに傾注。女性アスリートおよび指導者に向けた医学的に正しい知識の提供と啓蒙活動にも重きを置き、講演やセミナー活動も行っている。

女性のからだは女性の役割に適している。

身長が伸びるピークがあって、その1年半後に初潮がある。

 女性アスリートの競技力向上を考えるとき、女性ならではのからだの仕組みを理解しておくことが重要だ。理解して競技に臨めばからだに無理な負担をかけることなくパフォーマンスを発揮できるし、無理解のまま競技に臨めばからだがSOSを発し、それに気付かなければ競技力どころかその後の人生のQOL(Quality of life:生活の質)さえ著しく下げることになる。
 そこでまず理解すべきは月経(生理)である。高尾氏は、女性と男性のからだの違いから月経の仕組みをひもといていく。

「男性のからだは筋肉量が多くて背が高く戦いに向いています。なぜかというと動物の世界においてオスは家族を敵から守り、狩りをする役割だからです。一方で女性のからだはどうかというと、脂肪がついていて乳房があって、子宮や卵巣があります。妊娠、出産、子育てをするのがそもそもの女性の役割だからです。その役割にマッチした生活がからだにとっては望ましいのですが、特に女性アスリートの場合はなかなかそうもいかず、そこから様々な問題が起こってくるわけです」

では、男女のからだの違いはいつから出てくるのか。性器の違いがわかる第一次性徴期に続き、からだつきだけで男女の違いがわかるようになるのが第二次性徴期である。この時期、身長が1年間に男性で約11センチ、女性で約8センチもぐんと伸びる成長のピークがある。女性は一般的に10~12歳くらいの間にこのピークがあり、ピークがあるということが女性にとって大事な変化となる。なぜかというと、身長が伸びるピークのおよそ1年半後に初めての月経(初潮)を迎えることがわかっているからだ。

エストロゲンが分泌されるから月経がある。

 上記は一般的な女性の場合だが、ここで女性アスリートの問題のひとつが発生する。初潮が来ないという問題だ。高尾氏が解説する。

「早い時期から競技を始めている女の子は、その競技に合う体つきはどういうものかをすでに知ってしまっています。例えば細い方が有利だから、軽い方が有利だからという理由で食事を我慢する子がいるのです。すると充分なエネルギーが摂取できないので本来の成長ができません。身長が伸びるピークの年を迎えることなく、その後の初潮も来なくなる。そういう状態のまま競技を続けているケースが少なからずあるのです」

 初潮がない、月経がないことの何が問題なのか。それは女性ホルモンの働きを知ればわかってくる。

「初潮がどのようなからだの変化によって起こるのかというと、それはある程度の脂肪を蓄え、妊娠できるからだに成長したことで卵巣からエストロゲンという女性ホルモンが分泌されるようになったという変化からスタートします。つまり、初潮があったということはエストロゲンが分泌されるようになったということであり、逆に初潮がないということはエストロゲンが分泌されないままだということです」

 では、成長期にエストロゲンが分泌されないとどんな問題が起こるのだろうか。エストロゲンの働きから考えてみよう。エストロゲンは"女性らしさのためのホルモン"と呼ばれており、高尾氏は女性にとって重要な3つの働きをあげる。

女性らしさのためのホルモン「エストロゲン」の働き。

妊娠のチャンスをつくる。

 卵巣から分泌されるエストロゲンは月経に大きく関わっており、その分泌量の変動が月経の周期を決めている。エストロゲンの分泌量が徐々に増えるにしたがって、子宮内膜が厚くなる。

「子宮内膜というのは、子宮の内側にある卵(卵子)を乗せるためのベッドのような組織で、これを厚くすることで妊娠成立の準備をしているわけです。そしてエストロゲンの分泌量がピークを迎えると準備が整ったと脳が判断して排卵が起こります。エストロゲンは妊娠のチャンスをつくってくれるホルモンなのです」

 妊娠成立しなければ卵のベッドは必要なくなって子宮が手放すことになる。これが月経である。

肌や髪をいい状態に保つ。

 エストロゲンは女性にとってうれしい働きもしてくれる。肌や髪の毛をいい状態に保つという働きだ。

「女性なら、今日はお肌の調子がいいと感じる日がありますよね。実はそれはエストロゲンのおかげなのです。残念なことに女性がそのありがたさを実感するのは、閉経後にエストロゲンの分泌がなくなってからです。皺が深くなったり、くすみが濃くなったり、髪の毛が減ったりするのはエストロゲンがなくなるからなのです」

聞かなければ知らない意外な働き。

 ほとんどの人が知らないけれど、とても大切なエストロゲンの働きである。特に3番目の骨を強くする働きは、女性アスリートとその指導者が知っておくべき知識であり、以降の章でも詳しく解説している。

(1)コレステロール値を下げる。
 エストロゲンにはコレステロール値を下げる働きがあるが、理解しておくべきはその仕組みである。

「エストロゲンの材料は実はコレステロールなのです。ではコレステロールの材料は何かといったら脂肪なのです。脂肪がコレステロールになってエストロゲンになっている。つまり、エストロゲンが分泌されている間はコレステロール値が抑えられるし、逆に閉経後、エストロゲンが分泌されなくなると材料が余ってコレステロール値が高くなってくると考えればわかりやすい。さらにいうと、コレステロールの材料は脂肪だから、そもそもある程度の脂肪がなければエストロゲンをつくることができず、月経もなくなるわけです。極端に痩せた人の月経が止まることも、この仕組みを知れば理解できると思います」

(2)血管を強くする。
 コレステロール値が高い状態が続くと高脂血症になる。コレステロール値が高い状態が続くと血管の内側にプラークという油のかたまりのようなものができる。すると血管の内側が狭くなって血圧コントロールが上手くいかなくなることにより、血管自体のしなやかさも失われて硬くなる(動脈硬化)、血圧が高くなる(高血圧)。高脂血症、高血圧、動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞のような深刻な病気の原因だ。男性は加齢とともにこうした病気のリスクが高まっていくが、女性は閉経を迎えてから急激に患者数が増える傾向にある。

「妊娠、出産、子育ての期間はエストロゲンが女性のからだを守ってくれていると考えられますね」

(3)骨を強く保つ。女性アスリートにとって大切な働き。
 骨は1日に約7%が作り替えられている。壊しては作ってを日々繰り返しているわけだ。壊すのは破骨細胞なのだが、エストロゲンにはその破骨細胞が働き過ぎるのを抑える働きがあることがわかっている。エストロゲンがなければ壊す働きが強くなり、骨の量が次第に減っていく。骨密度が下がって骨がもろくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という病気が女性高齢者に多いのは、閉経後にエストロゲンがなくなるからなのだ。

「特に知っておいてほしいのは、人生における骨量のピークは15~ 20歳だということです。その後にどれほど努力してももうピークをつくることはできません。女性の場合、ゆるやかに減っていき、閉経後に急激に低下するのです。ということは、骨量を増やせる時期にしっかり増やしておくことが重要で、そのためにエストロゲンは大切なのです」

 15~ 20歳は、アスリートの伸び盛りの時期と重なる。もしこの時期にエストロゲンの分泌がなくなれば、骨量を増やすべき時期にもかかわらず逆に骨量が減ってしまい、強度の高い運動をする女性アスリートは骨折などの故障に悩むことになる。

(4)リラックスさせる。
 エストロゲンは自律神経の働きも調整しており、体調を整え、気持ちをリラックスさせてくれる。エストロゲンが不足すると交感神経と副交感神経のバランスが崩れることもあり、体調や精神状態にも影響する。

押さえておきたいポイントはこの3つである。
・エストロゲンがきちんと分泌されることで月経がある。
・エストロゲンは元々の材料である脂肪がなければつくられない。
・骨を増やすべき時期にエストロゲンがないと逆に骨量が減ってしまう。

妊娠を継続させるためのホルモン「プロゲステロン」。

月経のメカニズムと月経周期。

 ここまで、女性アスリートにとって、エストロゲンがいかに大切か解説してきたが、実は月経のメカニズムにはもうひとつの女性ホルモンであるプロゲステロンが関わっている。プロゲステロンは"妊娠を継続させるためのホルモン"と呼ばれている。
 右図を見ながら月経周期と2つのホルモンの関係をつかんでほしい。図は一般的に知られている28日サイクルにしてある。

(1)月経周期を考える際は出血のあった最初の日が起点となる(出血最後の日ではない)。月経の出血期間には幅があり、3~7日が正常である。

(2)子宮内膜を厚くするエストロゲンの分泌量が徐々に増えていきピークを迎えると、その後、排卵が起こる。28日サイクルの場合は14日目前後であるが、実はこの期間には個人差があり、特定の個人でもバラツキがある。

(3)排卵があるとからだは妊娠している可能性があると考え、妊娠を継続させるためのホルモンであるプロゲステロンの分泌が始まる。

(4)プロゲステロンの分泌が継続し、子宮内膜を妊娠しやすい状態に整える。

(5)排卵から10日ほど経過した頃、妊娠成立していないと、プロゲステロンの分泌量が減っていく。

(6)排卵から14日目、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ち、腟から排出される(経血)。これが月経の1サイクルとなる。排卵から月経までの期間には個人差がなく14日で一定している。

言葉にすると難しく感じるかもしれないが、全体のストーリーと図をイメージすればわかりやすい。

「覚えておいてほしいのは、エストロゲンとプロゲステロンの出るタイミングは違うということです。妊娠のチャンスをつくるエストロゲンが出た後に排卵があり、排卵があったから妊娠を継続させるプロゲステロンが出るのです」

「基礎体温の測定」で月経周期を知ろう。

 プロゲステロンは子宮内膜を妊娠しやすい状態に整えるだけでなく、妊娠を継続させるべくいろいろな変化を起こす。代表的なのが水分をためこむという働きで、からだがむくむのはこのためだ。大腸の壁がむくむことで便秘になったり、脳や脊髄のまわりにある髄液の圧が上がることで頭痛になったりする。イライラしたり集中力がなくなったりもする。こうした月経前の一連の症状をまとめて「月経前症候群(PMS)」と呼んでいる。PMSはコンディションを悪くすることが知られており、今では大事な大会や合宿などと重ならないように月経周期をコントロールすることが可能となっている。(※月経開始前後や月経時に起こる月経困難症と合わせ、シリーズ第二回のコンディショニングで詳しく解説する)
 そこで高尾氏が推奨するのが「基礎体温の測定」である。コンディショニングだけでなく、このあと解説する月経異常の対策や治療をするうえでも非常に役立つからだ。

「親鳥が卵を温めている姿をイメージするとわかりやすいのですが、プロゲステロンは体温を上げる働きもするのです。毎日基礎体温を測ってグラフにすると体温が高くなる時期が表れます。それがプロゲステロンが出ている時期で、そこからその人の月経周期をさかのぼって推定できるのです」

 ただし、基礎体温の測定には守るべき条件がある。
(1)体温の上昇は0.3~0.6℃と小幅なため、0.01℃の単位まで測れる体温計を用いること。
(2)測定する部位は中枢に近い舌下で測ること。
(3)筋肉を動かすと熱が発生するので起床してすぐに測ること
の3点だ。

「一日二日測るのを忘れた日があっても周期はわかるので大丈夫です。その日の体調や気分もひと言でいいので一緒にメモするようにすれば月経周期とコンディションの関係もわかります」

 強化選手に選ばれるようなトップアスリートでも、自分は月経周期が体調に影響すると把握している人は、基礎体温をしっかりつけている。

婦人科を受診すべき月経異常とは。

 まず出血期間。通常は3~7日である。これを超えて10日間くらい出血が続く場合は月経異常のため婦人科を受診すべきである。
 月経異常の原因は大きく分けて2つある。子宮や卵巣などの器官がなんらかの病気になっている場合と、ホルモンが正常に分泌されていない場合だ。器官の病気であればすぐに診断がつくので治療ができる。

 女性アスリートに多いのがホルモンの問題だ。ホルモンの問題は「月経不順」という形で表れる。月経周期は、一般的には28日サイクルとされているが、実はもっと幅広く、25~38日サイクルであれば正常の範囲である。前述の月経のメカニズムでも触れているが、排卵から出血までの期間は多くの女性共通で14日なのに対し、前の月経から次の排卵までの期間にはバラツキがあるからだ。25~38日サイクルをはみ出すと月経不順となり、婦人科受診が推奨される。いわば「黄信号」の状態だ。
 この月経不順が悪化し、月経のない状態が3カ月続くと「無月経」となる。これは「赤信号」、速やかに婦人科を受診すべきだ。

「月経周期がどのように変化するかというと、順調だった月経がいきなりなくなる場合もありますが、月経のサイクルがだんだんとばらけてきてから止まることが多いです。月経が3カ月なければぜひ婦人科にかかってほしいのですが、そういう変化を自覚するためにも基礎体温をつけてほしいのです」

要約すると、月経周期が25~38日サイクルを外れると月経不順だが、中でも3カ月間月経がなければ無月経だから、必ず婦人科を受診すべきということだ。

無月経のそもそもの原因はエネルギー不足。

 3カ月間、月経がない「無月経」の状態が何を示しているのか。妊娠をしていなければ、まず考えられるのはエストロゲンの分泌がないということだ。エストロゲンがなければ当然、エストロゲンの働きによる恩恵も得られない。エストロゲンが骨を強く保ってくれなければ骨はもろくなり、「骨粗鬆症」となって骨折しやすくなってしまう。
 では、エストロゲンはなぜ分泌されなくなってしまうのだろうか。問題のスタート地点である根本原因はなんだろう。高尾氏は答える。

「骨折して病院に来た女性アスリートに問診をして、そこではじめて無月経だとわかるケースは少なくありません。じゃあ無月経になる前に何があるのかといったら、日常的に充分な食事をとっておらず、エネルギー不足の状態が続いているのです。問題はここから始まっているのです」

 実は女性ホルモンの分泌は卵巣が単独で行っているのではなく、脳の視床下部からの指令に基づいて行われている。視床下部は大きなストレスがあると正常に指令を出せなくなる。エネルギー不足は生命維持に関わる重大なストレスだ。
ここで気をつけなければならないのが、充分なエネルギーの考え方である。身長と体重によって必要なカロリーは計算できるが、それは運動をしていない場合のエネルギー量であって、運動をする人はそれに見合ったカロリーをプラスしなければならないのだ。

「よりエネルギーを摂らなければならないのに、例えば新体操やフィギュアなどの審美系、陸上長距離などの持久系の競技をやっている選手は、体重が軽い方が有利だと感じているので、あえて摂らないという状況に陥りやすいのです」

 このような女性アスリートに多い健康問題について、国際オリンピック委員会は警鐘を鳴らしており、「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」の3つを「女性アスリートの三主徴」と定義している。この3つはそれぞれが関連し合っており、三主徴のはじまりは「利用可能エネルギー不足」であることに留意しなければならない。

強い骨はエストロゲンのおかげ。

アスリートなら骨を強くする条件を知っておこう。

(1)カルシウムがある。
 カルシウムは骨の材料となる。1日の目標摂取量は約650mgだが、日本人女性の平均摂取量は約450mgで約200mg足りていない。意識してカルシウムの多い食事をとるようにしたい。
(2)エストロゲンがある。
 エストロゲンは骨を強く保つ大切な役割を持つ。骨は1日に7%が作り替えられているが、破骨細胞の働き過ぎをエストロゲンが抑えてくれている。あるべきときにエストロゲンがなければ骨量は減少してしまう。
(3)ビタミンD、ビタミンKがある。
 ビタミンD、ビタミンKは、カルシウムを骨に吸着させるために必要な栄養素である。ビタミンDは魚やきのこに、ビタミンKは納豆や緑の葉の野菜に多く含まれる。
(4)日光を浴びる。
 太陽の光を浴びることで皮膚からビタミンDをつくることができる。屋内競技の選手は屋外でのトレーニングもメニューに加えてほしい。
(5)衝撃、負荷がある。
 衝撃、負荷も骨を強くする大事な要素である。水泳選手と陸上選手を比べると水泳選手の方が骨密度が低いことがわかっている。自転車競技も優れた全身運動であるが他競技に比べて骨密度は高くない。

 高尾氏は「この中でエストロゲンがなくなるということが、女性アスリートには起こり得るんだということを知ってほしい」と言葉に力を込める。

無月経アスリートの骨密度は、運動を習慣としない正常月経の女性より低い。

 一生涯の中で年齢とともに骨量は増減する。女性の場合、15~20歳頃がもっとも骨量が多く、生涯においてのピークとなる。ピークを過ぎるとなだらかに減少し、閉経を迎えると急激に低下する。この曲線は全ての女性共通で、20歳を超えてピークをつくることはできない。ピークの時期にしっかり骨密度を高めることが重要だ。
 本来、アスリートは運動によって骨に衝撃を受けるため、運動を習慣としない人よりも骨量が多いはずだ。アスリートは非アスリートより10~15%骨密度が高いという報告がある。
 しかし、無月経アスリートの骨密度は、運動を習慣としない正常月経の女性より低いことが調査でわかっている。ピークの山が低くなれば、生涯にわたって平均以下の低骨量の状態が続く。選手生命どころか引退後の健康にも影響する一生の問題なのである。

女性アスリートの疲労骨折が一番多いのは16歳。
だからこそ月経のある状態で競技をしてほしい。

 一方で、女性アスリートがもっとも疲労骨折を起こしやすいのは16歳だというデータがある。まだ最大骨量を獲得する前だから疲労骨折しやすいとも言えるが、だからこそこの年齢までに初潮を迎え、月経がある状態で競技をしてほしいと高尾氏は訴える。

「16歳で疲労骨折をする女性アスリートが多いから、15歳までに初潮があることが望ましいのです。小さい頃から競技をやってきて15歳までに初潮がなければ、慢性的にエネルギー不足の状態で過ごしてきたからかもしれません。月経がなければエストロゲンがない状態で競技を続けることになるので、疲労骨折のリスクはさらに高まります。15歳になった段階で初潮が来ていなければ、一度婦人科を受診してほしいと思います」

無月経の対策と治療とは。

 では、無月経の原因が器官の病気ではなく、利用可能エネルギー不足であると考えられる場合、どうやって改善すればいいのだろう。もっとも重要な対策は食事量を増やすことである。いくつかの指針が示されている。(注)摂食障害がある場合は心理的サポートとの併用が必要となる。

(1)減量して無月経になったのであれば、減量前の体重に戻す。

(2)BMI18.5を目安として目標体重を設定する。
 BMIが18.5を下回ると明白に月経が止まりやすくなるというデータがある。さらに17.5を切るとよりハイリスクグループとなり、骨折しやすくなることがわかっている。したがってBMIが18.5を保てるように逆算して目標体重を設定し、体重を増加する。
[BMIの計算方法]
 BMI=体重 ÷ (身長×身長) ※体重はkg、身長はcmではなくmで計算
 例えば、体重48kg、身長158cmであれば、48を1.58で2回割る。
 結果、BMIは19.23となる。

(3)1日のエネルギー摂取量を約2,000キロカロリーにする。
 何を食べるか。それはアスリートの基本的な食事の形をそろえることを心がければいい。食事の基本形は、〈主食〉〈主菜〉〈副菜〉〈乳製品〉〈果物〉の5つを毎食そろえることである。
 できれば、産婦人科医や公認スポーツ栄養士などの指導を受けることが望ましい。
WEBマガジンでは、栄養に関する記事も掲載しているので、そちらを参考にしてもらいたい。※1

薬物療法でエストロゲンを投与する。

 食事量を増やしても月経の再開がみられない場合、あるいは競技特性上、体重増加が難しい場合は、産婦人科医の判断によって薬物療法が行われる。

「まず適切な体重まで回復してもらうのですが、現実にはなかなか月経は戻ってくれません。しかし、成長期に1年以上無月経が続いてしまうと、60歳以降に骨粗鬆症になる率が明らかに高くなることがわかっています。将来のためにも10代で1年以上の無月経を経験してほしくないのです。そこで私たち産婦人科医は苦渋の選択としてエストロゲンを足すというホルモン療法を行います」

ただし、ホルモン療法はあくまでも補助的な治療で、劇的な効果が期待できるわけではないと高尾氏は言う。

「エストロゲンを足すことによって骨を強く保てるようになるかというと、残念ながらそうとは言い切れません。骨量もそれほど上がるわけではありません。でも、放置すれば骨量はより低下していくわけですし、エストロゲンを投与して月経が戻る人もいるので、ぜひ相談してください。エストロゲンがある、すなわち月経がある状態で競技を続けてほしいというのが私たちの願いなのです」

 骨はすぐ回復できるわけではなく、骨量の増加は年単位でみていかなければならない。「だからこそ骨がダメージを受ける前の無月経になった時点で、放置することなく婦人科を受診してほしい」と高尾氏は繰り返す。

関連情報

※1:『公認スポーツ栄養士』第1号・田口素子氏の記事はこちら

http://www.tef.or.jp/sports-science/magazine/page01.jsp?id=23343

月経をアンタッチャブルにしない。

男性指導者は、成長曲線やBMIを指導の指標に。
女性指導者は、過去の体験をもとに判断しないこと。

 成長期における慢性的なエネルギー不足は女性ホルモンの変調から初潮の遅れや無月経につながり、骨量の低下を招く。その状況を注視しなければならないのが、ジュニア期の女性アスリートを間近でみている指導者だ。

「月経は女性の健康のバロメーターであり、女性アスリートの指導においても、初潮が来ているか、月経は正常にきているかを把握することが大切です」

 とはいえ月経は女性にとってデリケートであり、その問題に触れることを戸惑う男性指導者が多い。

「いきなり聞けばセクハラ発言ともなってしまいますが、最近どうも調子が悪くてという選手に対し、「生理は大丈夫?」と聞ける関係性が築けていれば、信頼してさらに詳しい状況も話してくれるでしょう。そうなるためにも男性指導者には、男女のからだの仕組みの違いから女性アスリートの三主徴までしっかり勉強してほしいと思います」

 数字を用いることも有効な指導法になるという。

「女子パーセンタイル成長曲線というグラフがあります。もし中学生で見るからに体つきの細い選手がいれば、毎年学校で測定している身長と体重の記録をそこに書き入れることで初潮のくる時期を予測することができるし、十分成長していないことを伝えることができます。高校生になればBMIが十分生かせます。18.5を切るとアスリートの体型として望ましくないという表現を用いて指導することができます」

 女性指導者にも留意してほしいことがあると高尾氏は言う。

「例えば、生理痛は我慢するものではなくコントロールする時代になっています。でも生理痛で苦しんでいる選手に、自分もそうだったから大丈夫と言ってしまったら、その選手は我慢するしかなくなり、大事なサインを見逃すかもしれません。正しい情報は常に変化していくものです。ぜひ最新の医科学を取り入れてほしいと思います」

公認スポーツドクターの産婦人科医を推奨。

 産婦人科医の中でも女性スポーツ医学を専門とする医師は限られている。初潮の遅れ、月経不順や無月経で婦人科を受診する場合は、公認スポーツドクターの資格を持った産婦人科医に診てもらうことが望ましい。公認スポーツドクターは、公益財団法人 日本スポーツ協会のホームページで検索することができる。
 骨折をした場合、月経異常が伴うのであれば、整形外科と婦人科の併診を考慮すべきである。

関連記事

  • 公益財団法人 東京都スポーツ文化事業団
  • 公益財団法人 東京都スポーツ文化事業団 競技力向上 テクニカルサポート事業
  • 東京都テクニカルサポート公式twitter