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2018/01/26

プラス思考のセルフトークで心の競技力を向上する!~メンタルトレーニングの重要性(まとめ)~

プラス思考のセルフトークで心の競技力を向上する!~メンタルトレーニングの重要性(まとめ)~

前回、8つの心理的スキルの中でも、『プラス思考』は究極の心理的スキルであると紹介した。プレッシャーをはねのけ、ピンチをチャンスに変える『プラス思考』は、アスリートにとって最も重要な考え方であり、様々な問題を解決する万能薬となるからだ。これまでの締めくくりとして、この『プラス思考』を身につけるための実践的なトレーニング方法を紹介するとともに、メンタルトレーニング全体のまとめとして基本的な心理的スキルを組み合わせて試合に応用するテクニックを解説する。

高妻 容一

高妻 容一(こうづま・よういち)

東海大学体育学部 教授 スポーツメンタルトレーニング上級指導士

国際応用スポーツ心理学会、日本スポーツ心理学会など多数の学会に所属し、Sport Psychology Council(世界各国のスポーツ心理学の代表者の組織)委員、メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会代表・事務局で活躍する傍ら、現場での指導者としても多くのチームや団体のメンタル面強化のアドバイザー等を務めている。

ポジティブなセルフトークでプラス思考になる。

スポーツだけでなく生活の全てでトレーニングする。

『プラス思考(ポジティブシンキング)』は、究極の心理的スキルである。トップアスリートがいつも強い理由のひとつは、どんな場面、状況もプラス思考で捉え、それがプレーや記録、成績に反映されるよう強く意識しているからだ。では、プラス思考を身につけるには、どのようなトレーニングをすればいいのだろう。答えは8つの心理的スキルの中に用意されている。『セルフトーク(自己会話)』と『コミュニケーション』である。メンタルトレーニングの第一人者である高妻氏は、これに「態度・姿勢のトレーニング」を組み合わせることで効果的にプラス思考のトレーニングができるという。
まずセルフトークとは何かを理解するために、マンガを思い出してほしい。スポーツを題材にしたマンガは多く、そこには登場人物が口に出した言葉だけでなく、「負けるもんか!」「勝つのは僕だ!」など、頭の中で考えていることも心理描写として描かれている。つまり口に出していない言葉も含めてセルフトークである。このセルフトークを普段から全てポジティブな言葉にすることで自分自身に自己暗示をかけ、メンタルを強くしていくのだ。

「メンタルトレーニングで大切なのは24時間をどのように使うかです。セルフトークもスポーツをやっている時間だけでなく普段の生活全般をトレーニングの場として活用することが重要です。毎日のトレーニングの積み重ねがあってこそ、大事な試合でプラス思考のセルフトークができるようになり、本来の能力が発揮できるのです」

セルフトークの基本は、プラス思考でポジティブな言葉を遣うこと。人を褒めたり、いろいろなことに関心を示したり、感激したりすることもプラス思考になる。これを朝起きてから、夜寝るまで、トレーニングとして行うのだ。すると1日はこのようになる。

・起きたらベッドの上でストレッチをして「よーし、今日もがんばるぞー!」
・歯を磨きながら鏡に向かい、「おはよう!元気?もちろん絶好調さ!」
・家族に「おはよう」「朝ごはんありがとう」「いただきます」「おいしいね」「ごちそうさま」そして「いってきまーす」と元気にあいさつ
・学校に行ったら「おはよう」と元気にあいさつしながら教室に入り、「昨日のサッカー観た?あのシュート見事だったね」と楽しい雑談で気分をのせていく
・練習でも「こんにちは!!」と元気よくあいさつし、「先輩、頑張りましょう」「監督、よろしくお願いします」と明るく、楽しく会話をする
・練習中も「OK!いいねー、ナイス、もういっちょ、まだまだー、いける、ドンマイ、気にしない、さぁー来い」と大きな声で掛け声をかける
・帰宅したら「ただいまー」、寝るときは「おやすみー」

1日の全てを明るく、元気に、スマイルで、ポジティブに。慣れてきたら、マンガの主人公になったつもりでセルフトークを楽しむくらいの余裕を持ってほしい。「ここで打たれたら負けてしまう、この緊張感がたまんないネ!」「ここで決めればオレがヒーローだ!」と言えるようになれば素晴らしい。
そして、家族、クラスメイト、チームメイト、先生、監督など、人との会話をポジティブにすることが、もうひとつの心理的スキル『コミュニケーション』にもつながる。それには相手の長所だけを見て、「褒める」ことを心掛けることが大切だ。
これらのことは当たり前のようなことばかりだが習慣にするのは難しく、だからこそ意識して日々トレーニングすることで、メンタルが強くなっていく。

口に出すときは力強く語尾を上げて発声。

また、高妻氏は、「セルフトークは呼吸法のひとつでもある」と言う。

「言葉というのは、語尾を上げた方がポジティブになりやすいんです。語尾が聞き取りにくく、ぼそぼそしゃべっていると、いくら内容がプラス思考であってもネガティブに聞こえるし、自信がなくなります。胸を張ってヘッズアップし(顔が上を向いている状態)、力強くはきはきと発声すれば、それだけで人は自信が湧いてきてどんどんポジティブ志向になるのです。これは呼吸と気持ちが連動しているからです」

ネガティブなセルフトークの代表的なものが「えー、うそー、マジ、なんで、ムリ、だるい、できない」などだ。普段何気なく遣っていないだろうか。これらは言葉としてもNGであり、息が抜けるようなしゃべり方になるため呼吸法としてもNGだ。
監督や審判、先輩に対する不平不満、文句を言うのも同様にNGだ。こうしたぼやきは何も生み出さないばかりか、メンタルに悪影響をもたらす。
トップアスリートたちは腹の底から声を出し、「よーし! 次・次! OK・OK! 逆転だ! 気合い入れていこう! ノっていこうぜ! ナイスプレー!」などといった自分やチームメイトを鼓舞する言葉を常に使っている。どちらがアスリートとして向上するか、答えは明らかだ。
さらに「セルフトークは集中力を維持するためのテクニック」としても使える。
人は集中力を高めた状態を長い時間維持することができない。どうしているのかというと、集中状態を高めたり抜いたりを繰り返すことで集中力を維持しているのだ。野球で守備についた選手は、ピッチャーが投球するのに合わせて集中力を高めているし、テニスやバレーボールなど"構える"種目はその瞬間に集中力を高めている。陸上競技も同様だ。この集中力を高めるきっかけとしてセルフトークは非常に効果的で、「よしこい!」「いくぞ!」と強く言葉を発することでグッと集中できるのだ。セルフトークのトレーニングの中でぜひ意識しておくといいだろう。

セルフトークの力で心理的に優位に立つ。

自信があるように振る舞うことで効果が高まる。

セルフトークのトレーニングをより効果的にするのが「態度・姿勢のトレーニング」である。呼吸法の説明でも触れたが、セルフトークは言葉の内容だけでなく、話し方や発声はもちろんのこと、目や顔の表情、姿勢、歩き方なども同時に意識することでプラス思考をより強くすることができる。それが、行動の全てを自信があるように振る舞う態度・姿勢のトレーニングだ。胸を張ってヘッズアップするのは基本中の基本の動作。歩幅を大きく取ってゆっくり歩く。呼吸もゆったりと深く。視線はキョロキョロせずに真っ直ぐ。顔はスマイルを忘れずに。意図的に自信のある態度・姿勢をつくると呼吸が安定し、余裕ができて、自信につながる。つまりプラス思考に切り替わるというわけだ。

「付き合っていた彼氏・彼女と別れたとか、家庭がうまくいっていないとか、プライベートで悩んだり落ち込んだりすることは人間だから当然あります。でも上を目指すアスリートなら試合で結果を出さなくてはいけません。気持ちを切り替え、集中力を高める。悪いこともプラス思考で良い方向に考える。セルフトークはそのためのテクニックなのです」

このようにメンタルトレーニングはあくまでもセルフコントロールのために行うのだが、自信や余裕ある態度・姿勢ができるようになると、結果的に対戦相手にプレッシャーをかけることにもなるから面白い。
相手より精神的に有利に立つ『サイキアウト』というテクニックがある。

「試合場に入るときからゆったりと行動し、元気よく大きな声でこんにちはー!!とあいさつすれば、相手は、何だこいつ、やる気満々だなと思うでしょう。試合前に握手して、うっす、よろしくお願いします!と言えば、なんだか自信がありそうだな、強そうだなと思ってくれ、勝手に動揺したりプレッシャーを感じたりしてくれます。すると呼吸が速くなってペースが乱れ、そこにスキが生じるかもしれません。セルフトークの力で心理的に優位に立つことができるのです」

逆にサイキアウトでペースが乱されそうになった状況を跳ね返すのもセルフトークが有効である。

「ホームランを打たれたり、シュートを決められたり、逆転されたり劣勢状態だと誰でもしょぼんとなります。セルフトークが本領を発揮するのはこんなとき。ため息をつくだけならピンチはピンチのままですが、よくうちのピッチャー打ったね、ナイスバッティング!と相手をほめれば、相手のチャンスさえも味方につけることができるのです。これは心のぶれ・乱れを少しでもなくすためのセルフトークを利用したベンチワークです」

強豪校と対戦する際に名前負けしないためにも有効になるだろう。セルフトークはこれほど効用の広いテクニックなのだ。

人生の岐路でプラス思考の選択をした人が強くなる。

人生にはいくつもの岐路がある。スポーツを続けるか否か、どこの学校・チームに進むべきかといった大きな選択から、日々のトレーニングの中でどのメニューを選び、どれだけの時間を費やすかといった日常的な選択まで、人生は岐路の連続だ。高妻氏は、トップアスリートとは、プラス思考で良い選択をした人たちだと考える。

「練習メニューをこなした後、ああきつい!早く休みたいと考えるか、よっしゃ!キツいということは効いているということだから、あと2回やってやろうと考えるか。大勢の観客の前で試合をするとき、やばい!失敗したらどうしようと考えるか、ここで決めればオレがヒーローだと考えるか、同じ場面に立っても人によって感じ方、考え方は人それぞれです。しかし、トップアスリートはどう考えてどう判断するかを調べると、いずれも後者の方で、プラス思考の選択を重ねた結果、その延長上に今があるのです。日々のセルフトークがいかに大切か、わかっていただけるのではないでしょうか」

メンタルトレーニングを導入するかどうかもひとつの大事な選択だ。そんなことをやる暇があったら身体を鍛えたいと思うか、世界のトップアスリートがやっているんだから自分にも役に立つかもしれない、メンタルを鍛えたいと思うか。これを読んでいる読者にはぜひ"良い選択"をしてほしい。

全ての心理的スキルを使って勝つ可能性を高める。

競技力を最大限に発揮するための心理的な準備。

8つの基本的な心理的スキルの8番目に挙げられるのが「試合に対する心理的準備」である。これまでに述べてきた心理的スキルをうまく組み合わせ、早め早めに試合で勝つ可能性を高める努力および準備をすることだ。心理的スキルを試合でどのように活用するか、要点をまとめた。

1)『目標設定』
メンタルトレーニングを始める前に行った心理テスト(心理的競技能力テスト:DIPCA.3)を重要な試合の前に再度実施。結果を比較し、メンタル面がどれだけ強くなったかを確認。また、夢を達成するために立てたプランを実行できているかも確認。この試合で勝つことが自分の人生にとってどんな意味があるのかを確認し、モチベーションを高める。

2)『リラクセーション』、『サイキングアップ』
リラクセーションやサイキングアップによって自分の実力を最高度に近い形で発揮できるようになったかを確認。試合当日は、気持ちよく目覚めるための朝の日課をいつも通りに行い、散歩などをしておいしく朝ごはんを食べられるようにして、気持ちの準備をする。朝から、やる気のある、試合がしたくてたまらない気持ちにすることが勝つ可能性を高める。言わば「心のウォーミングアップ」だ。

3)『イメージトレーニング』
今までの最高の試合の日に書いた練習日誌を読み返し、そのときのことを思い出す。朝から何をし、何を食べ、どのようにして試合会場へ行き、試合会場に着いて何をし、どんなウォーミングアップをして、試合中はどんなプレーをして、そのときの気持ちを振り返り、そのときと同じように今日の試合を繰り返しイメージし、勝つためのイメージトレーニングをする。

4)『集中力』
リラクセーションによって静的な集中力を高めたり、サイキングアップによって動的な集中力を高めたりできるようになったかを確認。ルーティーン(集中力を高める動作や手順)を活用していつでもどこでも集中力が回復できるようになったか確認。普段の練習では感じない試合でのプレッシャーを、リラクセーションで上手くコントロールし、サイキングアップで気持ちを高めて、ここ一番の時に理想的な心理状態(ゾーン)にもっていく。

5)『プラス思考』
試合前のプレッシャーを感じても、相手に先行されても、ミスをしても、「これがスポーツの面白いところだ」、「このピンチを楽しもう!」などのプラス思考があれば試合中にチャレンジができるはず。

6)『セルフトーク』
口癖のようにポジティブな言葉が自然に出るように。それが自分の心に対する良い方向の暗示となり、気持ちもどんどんプラス思考になるはず。自分で自分の気持ちをのせ、自信をつけ、やる気を高め、やるべきことに集中力を高める。自信があるように意図的に振る舞う。

7)『コミュニケーション』
友だちやチームメイトとの会話も全てプラス思考の言葉を使い、お互いに練習の成果を褒め合う。できるだけ楽しい、気持ちがのるような内容にする。不平・不満・文句・悪口は絶対に言わない。

8)『試合に対する心理的準備』
上記のような「気持ちの準備」をしていくことで、試合での勝つ可能性を高め、相手が強くても自分ができることを準備し、最高のプレーをし、自身の持つ能力を最大限に発揮することにつながる。

試合前のミーティングではワクワクするようなひと言を。

さらに、もっと具体的に試合期にとるべき行動を挙げていこう。
心理的スキルに則った準備を進める際に、ポイントとなるのが「ピーキング」だ。上記のまとめは標準的なものだが、自分はこういう準備をしたら試合の日にピークに持っていくことができるという確実なパターンだ。大リーガーのイチロー選手は、朝食のメニュー、試合の何時間前に球場に入り、どのようなウォーミングアップするかまで細かくルーティーンにしている。各界のトップアスリートはそうした自分のルールを持っている。普段のトレーニングを通して自分に最も合ったパターンを見つけておけば、自信を持って落ち着いて試合に臨める。大事な試合に行き当たりばったりで望むことは考えられない。
試合会場や宿泊施設の下見もイメージトレーニングの大事なポイントになる。

「1~ 2週間前に試合会場に行き、可能であれば軽く練習をさせてもらいましょう。グランドや芝の感じ、風向き、観客席の様子などがわかれば余裕が生まれます。余裕=自信なので、なるほど、こういう感じね、OK!OK!大丈夫!やってやろうじゃないか!とやる気になるでしょう。宿泊先から試合会場までの経路も下見して、朝起きてから会場入りし、試合の準備をどうするか、試合にどう臨むかイメージしておくといいでしょう。自信=プラス思考なので、ポジティブなセルフトークで気持ちを高めながら、良いイメージトレーニングができるはずです」

試合前のミーティングで監督やコーチが心掛けるべきこともある。

「毎日の練習でしつこく言っていることを試合前にまた繰り返す方がいますが、命令や指図、注意などはしないでほしいのです(指導は練習で終えておく)。逆に選手から監督やコーチに何をしてほしいかを聞いてあげてください。そして選手やチームの目的・目標を確認し、10秒以内で選手がワクワクするようなひと言を言ってください。試合はあくまでも選手たちが主役ですから」

さて、心技体の「心」を鍛えるメンタルトレーニングの基本を5回にわたって紹介してきた。スポーツが自分で楽しむものであるのと同様に、メンタルトレーニングも自分で行うもの。他人にやってもらうもの、やらされるものではない。だからこそ高妻氏は、夢や目標を叶えるために「チャレンジしてほしい」と力を込める。
また、メンタルトレーニングは試合に勝つ確率を上げるための方程式であるが、ビジネスをはじめとして、人生の全てにおいて成功に近づくための方程式にも成り得る。スポーツには必ず引退がある。メンタルトレーニングの実践は、人生を切り拓くことにもつながることを最後に伝えておきたい。

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