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世界で活躍するアスリートの育成に向けた
スポーツ医・科学的サポートの可能性

2019/10/09

シリーズ 女性アスリートを支える 第2回(全3回) 女性特有の変化に左右されないために~コンディションは自分でつくる時代~

シリーズ 女性アスリートを支える 第2回(全3回) 女性特有の変化に左右されないために~コンディションは自分でつくる時代~

月経(生理)による体調不良や精神的な落ち込みが競技に影響し、大事な試合で「本来のパフォーマンスを発揮できなかった」という女性アスリートは多い。では、女性特有の変化が試合と重なることは仕方のない不運なのだろうか。我慢して乗り越えるしかないのだろうか。女性アスリートのメディカルサポートを手がける婦人科スポーツドクターの高尾美穂氏は「今の時代、対策は自分でできる。放置しないことが大事」と言う。最新のコンディショニングの考え方や具体的な対策方法を聞いた。

高尾 美穂

高尾 美穂(たかお・みほ)

産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター イーク表参道(女性のための統合ヘルスクリニック)副院長 日本スポーツ協会公認スポーツドクター 得意分野は女性スポーツ医学。文部科学省・国立スポーツ科学センター(JISS) 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー

婦人科スポーツドクターとして、競技を問わずプロからアマチュアまで女性アスリートのメディカルサポートを行う。自身もスポーツが大好きで様々な競技を行ってきた経験から、女性アスリートのパフォーマンスを向上するための条件や環境について婦人科学の立場から考えてきた。国立スポーツ科学センターの活動では、女性アスリートにおけるジュニア期、妊娠中および産後期におけるメディカルサポートに傾注。女性アスリートおよび指導者に向けた医学的に正しい知識の提供と啓蒙活動にも重きを置き、講演やセミナー活動も行っている。

アスリートだからこそ調子のいい悪いを人任せにしない。

調子のいいとき、悪いときを意識し、理由を考える。

 コンディションがいい、あるいはコンディションが悪いという言葉を私たちは日常的に使っている。コンディションとは体調や調子のこと。身体面と精神面の両方が充実し整っていることが、試合に臨むアスリートには求められる。このコンディションを意識的、能動的に整えるのが「コンディショニング」である。試合当日にコンディションのいい状態になるよう、逆算して準備・対策をすることだ。特に女性アスリートの場合、月経(生理)や月経周期といった女性特有の変化があり、本番の試合のみならず、トレーニングや体重調整もままならないと悩んでいる人も多い。
 婦人科スポーツドクターの高尾氏は、コンディショニングの入り口として、まず「コンディション管理」の大切さを説く。
「自分はどういうときに調子がいいのか、あるいは逆にどういうときに調子が悪くてイマイチの状態なのかを日頃から意識し、食事や睡眠の過不足なのか、月経との関係なのか、自分なりにその原因や因果関係を考える癖をつけてほしいんです。それを日記や練習ノートにメモし、2~3カ月を振り返って俯瞰するとみえてくるものがあるはずです」
 現状を把握できなければ、準備・対策はできない。
「アスリートだからこそ、調子のいい悪いを人任せにしないで、自分には何ができるんだろう、何を変えられるんだろうという探究心を持って取り組むことがコンディショニングの出発点になります」

コンディションの変化を月経周期に当てはめる。

 調子がいい時期がある、調子が悪い時期がある、そういった女性アスリートが過去数カ月を俯瞰すると、そこには一定のサイクルがみえてくるケースが多い。もっとも関連性が高いと考えられるのは、そう、月経周期である。
 そこで次に考えてほしいのが、調子のいい悪いという時期が月経周期の中にどのように重なっているかである。
 そのために必要なのが「基礎体温」だ。女性アスリートのコンディショニングには必須のデータと言っていいだろう。基礎体温を測り、低温期と高温期が規則的に繰り返されていれば月経周期が把握でき、そこに調子の変化を当てはめて考えることができる。
 月経周期とは、いわば女性ホルモンの変動であり、女性ホルモンの影響で様々な体調の変化が起こっている。月経と月経周期のメカニズムを理解しておかなければ、女性アスリートのコンディショニングはできない。具体的な対策に進む前に、月経周期と女性ホルモンの関係をおさらいし、しっかりイメージできるようにしてほしい。

コンディションがいいも悪いも原因は女性ホルモン。

自分のからだの一番の理解者は自分自身だから。

 自分には調子のいい時期や調子の悪い時期がある。集中力が高まって思った以上の成績を残せたこともあるし、からだが重くて本来のパフォーマンスを発揮できずに終わったこともある。数カ月を振り返って俯瞰して見たら、その調子の変化にはどうも一定のサイクルがあるようだ。そこで基礎体温を測り、自身の月経周期に当てはめてみたら、だいたい同じパターンが繰り返されており、月経周期とコンディションに明確な関係のあることがわかった。
 ──ここまでが女性アスリートのコンディショニングの入り口であるが、ここで重要なのは、これを明らかにできるのは他の誰でもなくアスリート本人しかいないという点だ。自分のからだのことは自分にしかわからない。一番の理解者である自分自身がコンディションを管理しなくてはならないのだ。

調子のいい時期はひとつ、悪い時期は2つの時期に集約。

 女性アスリートの調子のいい時期と調子の悪い時期は、月経周期の中の特定の時期に集約されることが各種のアンケート調査によってわかっている。その理由も医学的な見地から明らかだ。
 まず調子のいい時期。これはひとつの時期に集中しており、調子のいい時期があるという女性アスリートのうちの約7割が月経終了直後から数日間にコンディションがいいと答えている。これは女性のからだを守り、リラックス効果をもたらす女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌が増加する時期に当たる。
 次に調子の悪い時期。こちらは2つの時期に集約される。ひとつは月経中で、もうひとつが月経前3~10日である。
 月経中の調子の悪さは、原因別に2つに大別される。強い下腹部痛や腰痛などの症状を訴える「月経痛(生理痛)」と、経血量が多くて困る「過多月経」で、この2つは「月経随伴症状」に含まれる。原因は後述する。
 月経前の調子の悪さは「月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)」といい、調子の悪い時期があるという女性アスリートの約7割が経験している。この時期は、月経周期の中では妊娠を継続させるための女性ホルモンである「プロゲステロン」が分泌される時期と重なる。プロゲステロンはからだの様々な部分に水をためこむ働きがあり、それが体重増加やむくみ、頭痛、下痢につながり、メンタル的にもイライラしたり憂うつになったりする。

なぜ調子が悪くなるのか、その仕組みを理解する。

[月経痛(生理痛)]
痛みへの対策は、同時に子宮内膜症のリスクも低減する。

 高尾氏は、「マヨネーズのチューブをイメージしてください」と言って月経痛の仕組みを解説する。チューブは子宮である。月経とは、妊娠しなかったため使わなくなった子宮内膜が剥がれ落ちてからだの外に排出される生理現象。子宮というチューブは筋肉でできており、握るように筋肉を収縮させることで子宮内膜を絞り出す仕組みになっている。
 注目すべきは、この握る力を生み出すのは誰かというと、実は出ていく子宮内膜自体なのだ。つまり子宮内膜は自ら出ていきたくて握る力を強くしていると考えられ、その信号を伝達しているのがプロスタグランジンという物質だ。
 しかし、子宮の成長がまだ未熟であったり出産を経験していないと子宮口はまだ小さく、握っても子宮内膜はなかなか出ていけない。するとさらにプロスタグランジンが過剰に出て握る力を強めようとする。このときの過度な筋肉の収縮が月経痛の正体と考えられている。
 10代後半から20代前半は女性ホルモンの分泌が活発で子宮内膜もしっかり厚く準備されるため、それに比例して握る力が強くなることも月経痛に結びついている。
 健康で若いからこその痛みであると言えるが、だからといって我慢すればいいというものではないと高尾氏は注意を促す。
「痛みの対策はコンディショニングだけでなく、将来的に病気になるリスクを低減するためにも大切です。過度な筋肉の収縮により、月経血が卵管の方に逆流して子宮内膜症を引き起こすリスクを高める可能性もあるからです」
 月経痛の重い人はそうでない人に比べて将来的に子宮内膜症になるリスクが2.6倍高くなることがわかっている。月経痛の対策には、鎮痛薬(痛み止め)と低用量ピルという選択肢があり、次ページに後述する。

[過多月経]
貧血でパフォーマンスを落とさないためにも対策が重要。

 過多月経は経血量が多いという症状である。しかし量についての明確な基準はない。「そもそも他人と比較するということはまずしないので、本人が量が多くて困っているのであれば、それだけで対策をとり得る理由になります」と高尾氏。「判断基準のひとつとして、夜用のナプキンなのに通常代えるタイミングでオーバーしてしまうとか、タンポンとナプキンをしているのに漏れるとかであれば婦人科に相談してほしい」と言う。
 月経血は何かというと、子宮内膜と剥がれたところから出る血液。準備される子宮内膜が厚ければ厚いほど月経血も多くなるというのが過多月経の仕組みだが、子宮内膜症や子宮筋腫が原因で月経血の量が多くなっている場合もあるため、エコー検査を受けることを勧めている。過多月経の対策は低用量ピルであり、次ページで説明する。
 高尾氏は、婦人科を受診してほしい理由はもうひとつあるという。貧血の可能性だ。
「失う血液が多いと、鉄欠乏症貧血になっているかもしれません。鉄が欠乏すれば血中のヘモグロビンの値も下がり酸素運搬機能も落ちます。アスリートにとっては致命的なんです」
 貧血の人は月経周期のいつ検査するかにかかわらず、常にヘモグロビンの値が低い。また、月経のたびに鉄が失われるため、じり貧状態になってしまう。失われた鉄は月経が終わっても回復するものではなく、貧血でなかった人も貧血になっているかもしれない。そうなると医師による適切な治療が必要になる。従って、血液検査を踏まえた診断を医師から受けることが大切だ。
 ちなみに治療目的やそれ以外の健康なアスリートへの鉄剤注射はアンチ・ドーピングの活動に反し、間違った使い方となる。治療目的ならば第一の選択は経口鉄剤。

[月経前症候群(PMS)]
身体的には体重が増え、精神的には集中力が落ちる。

 月経前症候群(PMS)は、月経前3~10日の身体的、精神的な症状を言う。この時期は、まさに妊娠を継続させるための女性ホルモンであるプロゲステロンが分泌されている時期に重なり、プロゲステロンの働きによって体調の様々な変動が起こると考えられている。
 代表的な作用が水分をためこむという働きも原因となり、からだがむくむのはこのためだ。大腸の壁がむくむことで便秘になったり、脳や脊髄のまわりにある髄液の圧が上がることで頭痛になったりする。精神的にも不安定になり、集中力が落ちやすくなることも知られており、身体的な変調よりメンタル面の変調の方が大きな問題ととらえているアスリートも多い。
 集中力が落ちやすい時期であることを自覚することでリカバリーしているアスリートもいるが、高尾氏のもとには身体面と精神面の両方の相談が寄せられるという。
「身体面で多いのは体重の増加です。特に階級制の競技で減量が必要な選手にとってPMSへの対策は重要です。また精神面では、なんでもないのに涙が出るとか死にたくなるという人もいて、こういう方たちは治療対象になります」
 月経前症候群(PMS)への対策としては、低用量ピルなどホルモン治療があり、次ページで取り上げる。

コンディションを向上するための選択肢。

鎮痛薬(痛み止め)による月経痛対策

<握る力を生み出す物質を元からブロックする>

 月経痛の原因は、月経時に子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンによる子宮の筋肉の過度な収縮である。月経痛には鎮痛薬(一般的に使用される非ステロイド性消炎鎮痛剤)の服用が効果的である。ただし、鎮痛薬は単に痛みを抑えるのではなく、プロスタグランジンがつくられる過程をブロックすることで、結果的に痛みを緩和する効果が現れる。つまり、月経痛がひどくなってから服用したのでは遅く、プロスタグランジンがつくられないようになるべく服用しなければならない。
 高尾氏は「ほんの少しでも赤い血がみえたら、すぐ1錠目を飲んでみて」と言う。服用回数は、朝・昼・晩・朝・昼・晩の計6回。飲み始めは朝に限らず出血を認めたらいつ飲み始めてもいい。そこから定期的に6回だ。
「ただ、この飲み方で痛みのコントロールが難しいという方は、子宮内膜症や子宮筋腫の可能性があるので婦人科でエコー検査を受けてください。もし病気が月経痛の原因だった場合、治療をすれば月経痛も軽くなります」
 また、「癖になりそう」「ドーピングが心配」だからと鎮痛薬を使わずに我慢しているアスリートもいるが、使用期間が短ければ癖になることはなく、一般的に使われる鎮痛薬はドーピング禁止物質を含んでいない。
※ただし服用する場合はドーピング禁止物質が含まれていないか必ず自分で確認すること。

低用量ピルにより調子の悪さを改善しながら月経周期も調節

< 1 女性特有の変化をもたらす女性ホルモンを抑制する。>

 ピルは、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲスチン(プロゲステロンを人工的につくったもの)の両方を含む薬剤である。エストロゲン含有量の違いから、超低用量ピル、低用量ピル、中用量ピルなどがある。月経痛・過多月経・月経前症候群(PMS)の対策として使用されるのは低用量ピル、もしくは超低用量ピルである。
 オールマイティな薬剤のようだが、それは作用する仕組みから理解できる。ピルを服用すると脳は「もう充分にホルモンがあるからこれ以上分泌しなくてよい」と錯覚し、ホルモンを分泌させる命令をほとんど出さなくなる。
 エストロゲンの分泌がピークを迎えた後に起こるのが排卵であるが、エストロゲンの分泌量が減るとピークもなくなるため排卵が起こらない(これがピルが避妊目的で使われてきた理由)。
 次に、排卵が起こった後に分泌されるのがプロゲステロンであるが、排卵がないからプロゲステロンは分泌されない。よってプロゲステロンが原因とされる「月経前」という時期自体がなくなる。
 また、エストロゲンとプロゲステロンの分泌に伴って厚くなる子宮内膜も、両方の分泌が減るため薄くなる。そのため月経血が減って「過多月経」がなくなる。子宮内膜から出るプロスタグランジンも過剰に分泌されなくなるので子宮を収縮させる力も弱まり「月経痛」も抑えられる。

< 2 試合や合宿に月経が重ならないように調整できる。>

 上記は、調子の悪さへの直接的な対策となる。一般的な婦人科でも行われている治療法であるが、女性アスリートの場合、試合や合宿の日程に合わせて月経周期を調節するという使い方も同時にできることが、低用量ピルのメリットとして広く知られるようになってきた。
 仕組みはこうだ。月経がいつ起こるかというと、エストロゲンとプロゲステロンの両方がある状態から、両方ない状態になったときである。ということは、低用量ピルの服用を続けることによって両方ある状態を意図的につくることができ、服用をやめれば両方ない状態になって月経が起こる。
 例えば、21日間服用→7日間休薬→21日間服用を繰り返すという基本的な服用法であれば、服用をやめた2~3日後に月経が起こるので、休薬期間中に月経が来ることになる。この場合、21日間の服用期間を短くすれば月経時期が早まり、服用期間を長くすれば月経時期を遅らせることができる。低用量ピルを年間を通して継続しながら月経周期を調節するため「継続的な月経周期調節法」と呼ばれる。ただし、使うにあたっては注意点もあると高尾氏は言う。
「エストロゲン、プロゲステロンを出さなくてもよくなるという状態にからだが慣れるまでに3カ月ほどの期間が必要なんです。その間、からだが重いとかむくむなどの症状を訴える方がいます。約14%の人に不正出血があったという報告もあります」
 また、低用量ピルが誰にでも合うわけではないとも。
「ピルで減量がうまくいかないというケースがあります。例えば階級制の競技を行う選手が、低用量ピルを継続しながら、計量に合わせて減量をしなければならないといった場合、確かな知識や経験がなければなかなかうまくいいきません」
「ピルに対する意識の違いも大きいです。先輩やチームメイトがすでにピルを使っていて、自分も使ってみたいと言って相談に来る選手は継続させやすいのですが、ピルに対して本人や家族、指導者らが世俗的な固定観念を持っていると疑心暗鬼になってしまい、継続率は高くありません」

低用量ピルに代わるプロゲスチン製剤

<厳密な体重管理が求められるアスリートにも。>

 低用量ピルが合わなかったという女性アスリートの新たな選択肢として近年注目されているのがプロゲスチン製剤。副作用も少なく月経対策としてメリットの多い薬剤だと高尾氏は強調する。
「プロゲスチン製剤は、飲み続けることによって月経そのものが来なくなるお薬ですが、エストロゲンの分泌は軽度の低下のみのため骨密度の低下は認めません。体重も増えないし、むくみもほとんどありません。唯一困ることは、まれに不正出血があることですが、事前に備えておけば対処可能です。また、低用量ピルと違って血栓ができる頻度も少ないので、不動部位のあるパラアスリートも使えます。近年、ジェネリックが登場したことで以前より使いやすくなりました」

一時的な月経移動を可能にする中用量ピル

<調子のいい時期を試合の日に合わせる。>

 低用量ピルは、継続的に服用することで月経に伴う調子の悪さを改善し、同時に月経周期の調整もできる薬剤である。これに対し、一時的に服用することで月経が起こる時期を移動させられるのが中用量ピルである。月経の移動によって調子のいい時期を試合に合わせることは可能だが、月経に伴う調子の悪さを改善することはできない。この使用にも高尾氏は注意点をあげる。
「一時的な服用で月経を移動させるため、含まれるホルモン量が低用量ピルの2.5倍ほどのピルが一般的に使われるため、多くの選手がむくみなどの体感の変化を感じています。従って使用の注意点としては、直前になって月経を移動するのではなく、移動させたい月経のひとつ前の月経を移動させるように余裕を持って計画すること。また、オフシーズンの間に、中用量ピルによる月経移動が自分に合うかどうかを試してみたほうがいいでしょう」

アンチ・ドーピングの基礎として

<鎮痛薬やホルモン剤はOKだが、漢方薬はNG。>

 ここに紹介した鎮痛薬、低用量ピル、プロゲスチン製剤、中用量ピルには、ドーピング禁止物質は含まれておらず、アスリートも使用が可能である。ただし、禁止物質は毎年改訂されるため、最新の禁止物質リストを必ず確認する必要がある。高尾氏は逆にアスリートが気をつけるべきは漢方薬であると言う。
「婦人科では、月経痛や月経不順などに対してよく漢方薬が処方されます。しかし、漢方薬の成分の中には禁止物質が意外に多く含まれており、そのことを知らない医師もいますから、アスリート自身が漢方薬は選ばないという意識を持つことが重要です」

関連情報

※様々な薬剤についての紹介がありますが、女性アスリートとして困ったことがあれば、公認スポーツドクターの資格を持った産婦人科医に相談し、適切な指導を受けてください。

体重と睡眠の管理も重要なコンディショニング。

ウェイトは月経周期に合わせてコントロール。

 女性アスリートのコンディショニングとして、ここまで月経周期に伴う調子の悪さに対する対策を主に取り上げてきた。しかし、コンディショニングにおいては体重管理も重要な項目である。そこで月経周期を考慮した体重管理について、その基本的な考え方も高尾氏に聞いた。
 まず個人差はあるものの「女性は自然な月経周期の中では体重の変化が2kgほどあることを知ってほしい」という。もっとも重いのは月経直前の時期で、もっとも軽いのは月経の直後だ。この差が生まれる主な原因は、からだの各所に水がためこまれるためだ。従って月経周期を考慮せずに減量することは、自然な作用に反してからだに負担をかけることになる。月経前・月経中は努力しても体重は減らない。減量が必要であれば、体重が落ちやすい生理後の時期に取り組んだ方が効果的だ。ぜひ、月経周期に合わせた減量プランを工夫してほしい。
 さらに、体重別階級制の競技においては、生理周期のどこで計量するかがポイントになるため、低用量ピルやプロゲスチン製剤による月経周期の調整も考慮していいだろう。ただしその場合、どれくらい体重が変化するか、減量できるかは個人差があり、実際に試してみないとわからない。月経周期の調整によって体重管理や減量ができるかどうか、オフシーズンを利用してトライアルしておくことを高尾氏は勧めている。

充分な睡眠がパフォーマンスを向上する。

 もうひとつ、高尾氏が強調するのが「睡眠」だ。
「睡眠は、覚醒している時間のためにあるんです。起きている時間にパフォーマンスを上げるために人は睡眠をとっている。だからアスリートにとって睡眠はコンディション向上のために非常に大切なのです」
 睡眠とパフォーマンスの関係を示したスタンフォード大学の研究がある。バスケットボール部の部員に約1カ月半にわたって毎日10時間以上の睡眠をとってもらい、フリースローやスリーポイントシュートの成功率、コート1週ダッシュの時間を計測。10時間の睡眠をとる前と結果を比較した結果、シュートの成功率がおよそ1割向上し、ダッシュも1秒弱速くなっていた。睡眠を充分にとることで明らかにパフォーマンスの向上がみられたのだ。
 高尾氏は、睡眠の「質」も「量」も充足させる必要があるという。
「人は睡眠時間の前半で脳を休ませ、記憶の整理をしています。試合に負けるなどのネガティブな経験を頭の中の棚にしまうことで、気持ちを切り替えて、また頑張ろうと思えるのです。そして睡眠時間の後半になってやっとからだを休ませる。だから、頭とからだを休ませるためにしっかり眠る必要があるのです」
「もうひとつわかっていることは、睡眠の量は睡眠の質でリカバリーできないということ。いくらぐっすり眠れたと思っても睡眠時間が足りなければパフォーマンスは低下します。睡眠時間を確保しなければなりません」
 にも関わらず、現代人はストレスやスマホ、SNSによって睡眠時間が減っている。
「やりたいことをやって、残りの時間を睡眠に当てるのではなく、寝る時間を確保すべく、逆算した行動をとってください。徐々に部屋を暗くしたり、カフェインやアルコールを控えるなど、よく眠るための準備を意識してください」
 高尾氏が推奨するアスリートの睡眠時間は7時間半。個人差もあるが、昼間眠くならなければ睡眠が足りていると考えていいという。スマホのアプリなどを使って睡眠の質と量を管理することも勧めている。

アスリート・指導者・保護者の方へ

「自分のコンディションは自分で把握し、確かな知識と自分の意志でコンディショニングに取り組むことが大切です。女性特有の変化に左右された時代はもう過去のもの。本来のパフォーマンスを発揮するために、コンディションは自分でつくっていく時代になっているのです」と高尾氏。
 低用量ピルなどを使用するメリットとデメリットも明確に示されており、トップレベルの女性アスリートほど利用している。プラスになるものは積極的に利用すればいいという考え方だ。頭ごなしに否定する態度は、無知と偏見によるものだろう。
 アスリート本人がその気になり、指導者・保護者も理解して協力することが、いいコンディショニングを維持できる秘訣である。月経や月経周期とそれに伴う心身の変化や症状はデリケートな部分であり、より密接なコミュニケーションが不可欠だ。
 月経による不調がトラウマで月経そのものがない方がいいというアスリートもいれば、調子の悪い時期があるからこそ調子のいい時期により頑張れるというアスリートもいる。それぞれの選択肢が合う人もいれば合わないという人もいる。
 アスリート本人の希望や目標を共有するとともに、お互いが最新のスポーツ医・科学の知見を学び、個々のアスリートに合ったコンディショニングを探究してほしい。

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