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2017/11/15

不安や緊張に負けない強い心を手に入れる。~練習の質を高め、試合で実力を発揮する~

不安や緊張に負けない強い心を手に入れる。~練習の質を高め、試合で実力を発揮する~

「試合中、弱気の虫が出て負けてしまった」などと言うことがある。その正体は、不安や緊張、プレッシャー、自信のなさ、準備不足などから来るマイナス思考の感情だ。しかし、メンタルトレーニングを日々実践することで、感情はコントロールすることができるようになる。練習の質が高まり、試合では強気の虫が味方して実力を発揮できるようになるのだ。メンタルトレーニングの第一人者、高妻氏が提唱する8つの心理的スキルの内、今回は、『イメージトレーニング』、『集中力の高め方』、『プラス思考になる方法』に焦点を当てる。

高妻 容一

高妻 容一(こうづま・よういち)

東海大学体育学部 教授 スポーツメンタルトレーニング上級指導士

国際応用スポーツ心理学会、日本スポーツ心理学会など多数の学会に所属し、Sport Psychology Council(世界各国のスポーツ心理学の代表者の組織)委員、メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会代表・事務局で活躍する傍ら、現場での指導者としても多くのチームや団体のメンタル面強化のアドバイザー等を務めている。

自ら考え、動ける能力を鍛えるイメージトレーニング。

意外と知らない正しいイメージトレーニングの方法。

トップレベルの選手が実践していることを収集、分析し、8つの心理的スキルとしてプログラム化したものが、高妻氏の提唱するメンタルトレーニングである。いわば勝つための方程式、強くなるための方程式だ。
これまでに、やる気を高める「目標設定」、理想的な心理状態(ゾーン)をつくるための「リラクセーションとサイキングアップ」を取り上げた。
今回は、競技技術がめきめきと上達し、本番に強いメンタルを身につけるテクニックとして3つの心理的スキルを紹介する。
まず「イメージトレーニング」である。イメージトレーニングという言葉は定着しているが、効果を出すためには実際どうやるかはあまり知られていない。
野球の練習を例に考えてみよう。いつでも体を思うように動かせることが目的であるから、イメージトレーニングは練習と結びつけて実践することが前提だ。しかし、素振りをしながらイメージトレーニングができている選手はほとんどいない。たいていの選手は、バッティングフォームやヘッドスピードばかり気にして、延々と同じ素振りを繰り返す。

「これは多くの選手が行う練習のための練習でしかありません。自分で考えて予測・判断し、柔軟に対応しながら動ける能力、すなわち"イメージ能力"は鍛えられません。これでは選手は伸びないし、勝てるチームになりません」

では、イメージ能力を高めるためにはどうすればいいのか。高妻氏は、実況中継をしながらの練習を勧めている。

「ピッチャーは○○、9回裏2点リードされて2アウト、ランナー2,3塁、第1球投げた、外角高めの速い球、それをライト方向へ流し打ち、ヒットでランナー1人生還──などと口に出して実況中継しながら素振りをするという方法です。いろいろな場面を想定してイメージトレーニングをすれば、タイミングを崩されても対応できるようになるし、打率は着実に向上していくでしょう」

もちろん、野球に限らず、どんな競技にも使える方法だ。新しい技術を身につけるためにも、身につけた技術をいかに使うかというシミュレーションにも使える。

「練習日誌」がイメージトレーニングの道具になる。

やる気を高めるための「目標設定」を紹介した際、目標やプロセスを再確認するための道具として「練習日誌」が登場した。この練習日誌をイメージトレーニングの道具として使うことを高妻氏は推奨する。

「練習日誌には、心・技・体それぞれについて、今日の修正したい点を書くスペースがありますが、書き方にはルールがあります。単に失敗したこと、できなかったことを書くのではなく、こういうふうに修正・改善すればきっと良くなるというようにプラス思考で書かなくてはなりません。文章だけでなく、体を使ってこの修正・改善を具体的にイメージトレーニングすることがとてもいいのです」

修正・改善のイメージトレーニングには正しい手順がある。
例えば、試合でボテボテのゴロを打ってしまったとする。
1)まず、そのボテボテのゴロを体を使って再現する。
2)次に、逆回転の動きで時間を巻き戻す。
3)球種やコースをよく思い出し、今度はカキーンとセンター前にヒットを打ったシーンをイメージして素振りをする。
4)もう一度ボテボテのゴロを再現。
5)逆再生の動きでリセット。
6)もう一度センター前ヒットの素振り。
7)さらにヒットの素振りを何十回と繰り返し、これで明日は大丈夫と自信を持って終わる。

毎日の反省で365の悪いイメージが刷り込まれ、マイナスイメージが脳に植えつけられるが、修正・改善したポジティブなイメージで365の良いイメージが頭の中に残り、成功イメージがポンポンと浮かんでくるようになる。人間というのは一度体験したことは覚えている。イメージトレーニングも体を使った体験だから、この蓄積が本番でモノをいうのだ。

ふざけるのも集中力を高めるテクニック。

好き!楽しい!おもしろい!が集中力を高める。

次に身につけてほしい心理的スキルは「集中力」である。
「集中して!」「集中力を高めろ!」というのは指導者の口癖のようなものであるが、イメージトレーニングと同様に、何をどうしたら集中できるのか、その方法を理解している人は少ない。

「人はどんなときに集中しているのかを考えてみてください。好きな趣味に没頭しているときは誰でも夢中になっていますよね。つまり、好き、楽しい、おもしろいという気持ちがあるときに人は集中した状態になり、スポーツであれば、このときにもっとも選手の競技力が伸びるのです」

だが、前回も述べた通り、選手たちに野球は好き? サッカーは好き? バスケットボールは好き? と聞くとみんな迷うことなく手をあげるが、練習は好き?と聞くと金縛りのように手をあげなくなってしまう。スポーツが好きなのだから、本来その練習にも集中するはずなのに、練習は嫌いで楽しくもおもしろくもないものになっている。高妻氏は「指導者がもっと工夫すべき」と指摘する。

「練習中に笑うなんてふざけている。ふざけるなんてとんでもない。そんな固定観念に縛られている指導者がいます。でも、そんなこと誰が決めたのですか。そういう指導者は失敗や欠点ばかりを指摘しています。練習が楽しいはずがありません。いいプレーをほめ、長所を伸ばす練習をすれば、選手はワクワクして楽しいと感じます。自然と集中力が高まり、上達も早くなります。サイキングアップでふざけるのも、ゲームや遊びで楽しい気分にして気持ちをのせるため。好き、楽しい、おもしろいと思える心理状態をつくってあげると集中力は高まります。工夫の余地はまだまだたくさんあるのです」

実は、心のストレッチとウォーミングアップであるリラクセーションとサイキングアップは、呼吸法や漸進的筋弛緩法などを使って集中力を高める基本的なプログラムでもある。理想的な心理状態には集中力が伴うからだ。練習前にリラクセーションとサイキングアップを行うことは集中力のトレーニングにもなるのだ。

パターン化した動作で集中力を高めるルーティーン。

野球のイチロー選手やラグビーの五郎丸歩選手の活躍で有名になった「ルーティーン」も集中力を高める方法のひとつだ。
イチロー選手は、ベンチからネクストバッターズサークルに入り、打席に立ってバットをぐるりと回すまで、いつも同じ動作を繰り返す。なぜそうするのか。もちろん打席で集中するためだ。
これはプレー前の動作を一定にして、リズム・呼吸・心を安定させ、集中力を高めたり気持ちを切り替えたりする心理的なテクニック。集中力を高めるには安定した呼吸をすることが大切で、安定した呼吸をすることがプレーを安定させるのだ。
イチロー選手はある時期からルーティーンを始め、1日の生活全般をルーティーン化するほど徹底している。朝食のメニュー、球場入りの時間、ウォーミングアップのやり方まで決まっていて、試合後には道具の手入れをしながら反省をし、夜は足をマッサージしながらリラックスするという。

「一番簡単なのは、プレー前の動作をルーティーンにすることです。いつも無意識にやっていたことをも含め、意図と目的を持ってやるだけで効果がまったく異なります。それを試合前、起床後、就寝までと1日に広げていくと、もっとレベルアップできます」

他にも、自分で決めたある1点を見つめて、集中力を高めたり気持ちをリセットするきっかけにする「フォーカルポイント」、胸を張って上を向き、呼吸を整えて「よし、いくぞ!」と声を出す「ヘッズアップ」など、集中力を高めるテクニックは多くある。

「ただし、集中力は維持できません。トップクラスの選手ほど集中のONとOFFのテクニックをうまく使っていて、ここぞというときに集中力を高めることができます。大切なのは、毎日何度も繰り返してトレーニングして自分のテクニックとして身につけ、いつでもどこでも使えるようにすることです」

ピンチもチャンスだと考えるプラス思考。

他人・過去・未来は変えられない。考えるだけ無駄。

メンタルトレーニングの究極の心理的スキル、それが「プラス思考」(ポジティブシンキング)だ。人間が感情に左右されることは、説明するまでもなく誰もが経験している。スポーツにおいても、ピンチのときこそチャンスだと捉えられればプレーや記録が違ってくる。考え方全てをプラス思考にすることが、究極のメンタル強化になるのだ。
力いっぱい元気な声であいさつをする。胸を張って上を向くヘッズアップで自信を持ってポジティブにプレーする。笑顔で笑ってプレーする。よしいける! オレはうまい! 今日は絶好調だ!と自分に言い聞かすようにポジティブなセルフトークをするなど、プラス思考になる方法はいろいろある。
これらがプラス思考の入口で、常に意識してトレーニングすることでプラス思考が身についていくが、さらに高妻氏はプラス思考には極意があるという。

「それは、他人や環境は変えられない、過去に起こったことも変えられない、未来も無理、つまり"考えるだけ無駄なこと"だと理解することです。ある事柄に直面したとき、ポジティブに考えるか、ネガティブに考えるか、その決定権は自分にあるのです。自信を持って無駄なことを考えるのはやめましょう」

怒ってばかりの監督を変えることはできない。怒られて落ち込んだりふてくされたりしても何もいいことはない。だったら「よくあれだけ怒れるな。熱心な監督だ。ありがたいな」「怒るのは監督が得意なルーティーンだ」と思った方が気が楽になる。変えられないこと、コントロールできないことは考えるだけ無駄なのだ。それより、いま自分にできるベストなことは何だろうとポジティブに考える癖をつけるべきだ。
過去に対する考え方も変わってくる。

「普通の選手は過去を振り返って落ち込みますが、トップの選手は過去を修正して未来につなげることができます。日本人は反省するのが大好きですが、ただ反省しても過去は変えられないので気分が落ち込むだけです。だったら今できることは何か。イメージトレーニングです。過去の失敗を修正して明日は大丈夫だと自信を持てるイメージトレーニングは、プラス思考にも通じているのです」

例えケガをしても神様がくれた休みだと捉えて、メンタルトレーニングがしっかりできるチャンスだ、パワーアップして復帰するぞと考える。プラス思考をすれば、ケガさえもポジティブに考えることが可能になるのだ。

プラス思考ビームでネガティブを撃退。

ユニークなチーム全体でプラス思考になる方法が近年広がりを見せている。
「プラス思考ビーム」だ。
ある中学校の女子バスケットボール部で考案されたものだが、簡単で効果てきめん、楽しくプラス思考への切り替えができると高校や大学、プロのチームが次々に採用している。
やり方は簡単だ。

(1)ネガティブな人を発見したら、手で十字をつくり、「プラス思考ビーム!」と叫びながらビームを撃つポーズをする。
(2)ビームを受けた人は、「わぁ!」とやられたふりをしたあと、「プラース!」と言って両手を広げ、身体でプラスを作り、一気に気持ちをポジティブに切り替える。

選手同士はもちろん、監督や保護者もネガティブな選手を見つけたらビームを撃っていい。うつむいていたり、ネガティブな発言をしたり、だらだらとした態度をしている選手がいたら、気がついた人がプラス思考ビームを浴びせる。

「恥ずかしいから嫌だというチームもあるのですが、強いチームや伸びているチームほど理解が早く、積極的に取り入れてくれます。本気ジャンケンやあっち向いてホイを真剣にやるのと同じで、わざとふざけるテクニックとして受け入れてくれるのです。そういうチームはノリがいいし、切り替えが速いから効果もすぐに表れます。チームの雰囲気がグッとよくなり、選手たちのプレーも変わってきます」

イメージトレーニング、集中力、プラス思考、この3つの心理的スキルは相互に関連しており、同時に内容を理解して毎日の練習や生活に取り入れることでゾーンを作り、いいメンタルトレーニングができるようになる。ぜひ今日から実践してほしい。

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