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2018/09/21

ユニバーシアード大会で優勝した 日本代表サッカーチームも実践!~チームを強くするメンタルトレーニング~

ユニバーシアード大会で優勝した 日本代表サッカーチームも実践!~チームを強くするメンタルトレーニング~

隔年で開催される国際総合競技大会、ユニバーシアード大会。宮崎純一氏は、ユニバーシアード2017台北大会に出場した日本代表サッカーチームの監督として、メンバーの選抜から強化合宿、国内外のテストマッチと、2年をかけて代表チームをまとめあげ、見事に優勝を遂げた。険しかったという優勝までの道のりに、はたしてメンタルトレーニングはどれほど役立ったのか。エピソードを交えて語ってくれた。

宮崎 純一

宮崎 純一(みやざき・じゅんいち)

青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 教授 同大学サッカー部部長 2017年ユニバーシアード台北大会 日本代表サッカーチーム監督(優勝) <専門競技>サッカー <専門分野>スポーツマネジメント、スポーツ心理学

青山学院大学サッカー部のコーチ・監督を2014年まで務める一方、大学生または23歳以下の日本代表サッカーチームの強化に長年携わってきた。コーチとして、東アジア競技大会に3度(釜山、大阪、マカオ)、ユニバーシアード大会に5度(シシリー、北京、大邱、イズミル、ベオグラード)参加。6度目となる2017年のユニバーシアード 台北大会では代表監督としてチームを優勝に導いた。早くからメンタルトレーニングの有効性を認識し、青山学院大学サッカー部や代表チームに導入。個々の選手の競技力向上はもちろん、チーム力向上に役立ててきた。

チーム一丸でメンタルトレーニングを実践。

代表チームを短期間でひとつにまとめるために。

2017年のユニバーシアード台北大会のために結成された日本代表サッカーチーム。決勝トーナメントを制し、見事に優勝を果たしたものの、チーム結成当初から決勝戦まで、2年に及ぶその課程は険しいものだった。強化試合での敗戦、日本代表への期待と日増しに大きくなるプレッシャー、予期せぬトラブル、立ちはだかる強豪チーム。何度も逆境に陥った。しかし、選手達の心は決して折れることなく、逆に気力をみなぎらせていったという。なぜか。代表監督を務めた宮崎氏が語る。

「心理面のサポートが有効であったことは間違いないと思います。全国から選ばれた選手ですから、サッカー技術や身体能力に優れ、強い心も持っています。しかし、個々の選手がいくら優秀でも勝てるとは限らないのがサッカー。しかも、彼らは日本代表という相当大きなプレッシャーの中で戦っていかなければなりません。そこで、チーム発足当初から採用したのがメンタルトレーニングです。メンタル面を強化しながら結束力を高め、チームを短期間でひとつにまとめる。そのためにとても有効な心理的スキルだからです」

メンタルトレーニングは、心理学やスポーツ心理学の研究から効果があると実証された「心理的スキル」をトレーニングで身につけ、習慣化・自動化するもの。代表チームでは、やる気や練習の質を高め、優勝までのプランを自覚するための「目標設定」をはじめ、心のウォーミングアップとしての「リラクセーション」と「サイキングアップ」など、8つの心理的スキルを選手全員が日々実践した。トップアスリートほど理解があり、積極的に取り入れるというメンタルトレーニングだけに否定的な意見はほとんどなく、「チーム全員で心理面の強化に取り組めたことが大きかった」と宮崎氏は振り返る。

ポジティブシンキングがチームの雰囲気を一変。

チーム発足当初と大会直前の心理的競技能力診断テストの結果を比較すると、忍耐力、協調性、判断力、予測力、決断力、リラックス能力、自己コントロール力などが明らかに上昇している。そうしたメンタルトレーニングの効果は、選手たちの態度や言動の変化に顕著に表れるといい、宮崎氏はいくつもの場面でそれを実感している。
代表チームは、ユニバーシアード大会まで2年をかけてチームづくりを行う。強化を図るために国内外での合宿や試合が組まれるが、代表チームの初陣とも言えるのが、メンバー確定直前に出場するデンソーカップチャレンジサッカーだ。全国の地域選抜チームに代表チームが全日本大学選抜として加わって実施される大会だが、結果は、3試合のうち大事な1回戦にPKで負けてしまい、8チーム中5位に終わった。

「ユニバーシアード大会を見据えた下級生中心のチームだったとはいえ、全日本が勝って当然の大会です。当然、選手たちはショックだし、落胆したはずです。でも、1回戦の後、選手たちの間から、次の試合でも同じことを繰り返しちゃいけない、終わったことは取り返しがつかないんだから、僕たちは明日に向かって立ちあがらなきゃ、とポジティブな声が次々に上がったんです。これはメンタルトレーニングがあったからで、そういう前向きな雰囲気がチームに醸成できたことは大きな成果でした」

「プラス思考」(ポジティブシンキング)はメンタルトレーニングの究極の心理的スキル。変えられない過去を振り返って落ち込むのではなく、過去の失敗を修正して明日は大丈夫だと自信を持てる「イメージトレーニング」につなげられる。残り2戦はきっちり勝っている。

いい心理的準備が勝敗を決する。

不測の事態も受け入れてベストを尽くす。

この大会後、チームは再編を経て海外強化合宿を実施。帰国後すぐにデンソーカップ大学日韓定期戦に臨んだ。ホームとアウェイを入れ替えながらの開催で、お互いにホームでは黒星無しという伝統の一戦。この年は日本開催。絶対に負けられない戦いだった。

「マレーシアのプロチームとの強化試合にも勝利し、その勢いに乗って日韓戦に臨もうと考えていたのですが、不測の事態が発生。ただでさえ大きなプレッシャーがかかる中、試合の準備が十分にできないままキックオフとなり、くしくも心理面の強さが大いに試される試合となりました」

競技場への移動で選手の乗ったバスが事故に遭遇。余裕を持って出発したが、選手の乗ったバスが競技場に着いたのは試合開始わずか20分前。1時間半前に到着して入念に準備するはずだった予定が全て狂ってしまった。

「しかし、バスから降りてきた選手たちに焦りの色はありませんでした。バスの中で話し合ったらしく、自分たちはやれることをやるしかない、準備ができなかったことを言い訳にしないで90分に全力を出し切ろうという意思統一がすでにできていました」

ベンチスタートの選手が荷物を運び、スターティングメンバ―はすぐにウォーミングアップを開始。短い時間の中でも、省略せずにリラクセーションとサイキングアップを行った。
そして迎えた試合。1点ビハインドのまま終盤を迎えるという苦しい戦いだったが、残り10分で追いつき、ロスタイムで逆転。粘り強さで勝利を自らに引きこんだ。

「最後まで気持ちを切らさずに戦い抜き、最後に逆転するという試合展開には本当に驚きでした。それができたのは、気持ちの整え方がチームみんなでできていたからだと確信しています」

強豪相手にアグレッシブな攻撃を展開。

ユニバーシアード台北大会の本番でもメンタルトレーニングの成果は発揮された。宮崎氏が最も印象に残っているのは、決勝トーナメントの1回戦。対イタリア戦だ。イタリア代表は、大学を卒業したばかりのプロ選手やプロのキャリアを経た大学生らを集めた強豪で、優勝候補の筆頭に挙げられる。前回大会の準決勝で敗れた因縁の相手であり、日本はこのイタリアを破って優勝するためにあらゆる準備をしてきたと言っても過言ではない。
当然、僅差の接戦が予想されたが、試合は開始早々に動く。日本の攻撃をイタリアがファールで止め、これで得たフリーキックが決まって先制点が入る。するとこれを機に日本が猛攻を開始。次々に得点を奪い、結果的に6対0の大勝となった。

「実力的には相当苦労するはずの試合でした。今回の代表チームは非常に攻撃的なチームでしたが、決して過信することなく、心理面を含めた準備を毎試合行っていました。それが試合のパフォーマンスにつながり、気持ちの上でもアグレッシブに攻めることができた。気持ちの準備がしっかりできていたからこその結果だと思います」

日本代表チームのメンタルの強さを物語るデータも記録されている。チームではGPSデバイスを用いた選手のコンディショニング管理を行っており、試合中の選手の運動量が詳しく解析できる。それによると、試合後半になるに従ってスプリントの数が増えていったり、そのスピードが落ちないのが日本代表の特徴なのだという。

「これは、試合に出たからにはきちんと力を出していこうという選手の内面的なモチベーションと、運動量が可視化されることで、後半もやれるんだという自信が生まれたことが相乗効果となって現れた結果ではないでしょうか」

まさにメンタルとフィジカルが一体となって強化されたことの証左ではないだろうか。

チームの結束力、凝集性を高めるために。

福島での合宿で代表としての誇りと責任を自覚。

宮崎氏は、メンタルトレーニングを選手個々の競技力向上はもちろん、チーム力強化のために取り入れた。だから、8つの心理的スキルに加え、チームの結束力、凝集性を高めるためにもっと何かできないかと考えた。それがユニバーシアード大会直前に行われた最終合宿のプログラムに表れている。合宿地は福島県のいわき市。現在も震災復興に向け多くの方々が尽力を続けている地域である。

「タイミング的には戦術面を追い込まなければならない時期なのですが、それ以上に私は日本代表の誇りと責任を感じる場をつくりたかったんです」

合宿2日目にドキュメンタリー映画「MARCH~マーチ~」を全員で鑑賞した。原発事故で避難を余儀なくされ、一度はバラバラになった小中学生のマーチングバンドが、「音楽をしたい」という願いを叶えて再結成。Jリーグの愛媛FCから招待を受け、公式戦のハーフタイムで見事な演奏を披露するという姿を追ったドキュメンタリー映画だ。スポーツで復興支援をしたいと様々な活動を続け、この映画の製作に携わったある人物にも講演いただいた。翌3日目には原発事故復旧拠点となったJビレッジや原発30キロ圏内の街並みを視察。夜には、映画に登場したマーチングバンド「Seeds+(シーズプラス)」のメンバーが合宿地に駆けつけてくれて、ピッチの上で生演奏による壮行会を催してくれた。

「日常生活もままならない中、音楽をあきめなかったSeeds+の子どもたち。その演奏は力強く、音楽ができる喜びにあふれていました。選手たちは、サッカーができることの幸せや、強い思いがあればやれるということを再認識できたと思います。ましてや彼らは日の丸を背負って戦えるのですから、絶対に勝つんだと決意できたと思います」

3大会ぶりの金メダルを獲得した日本代表の選手たち。その活躍のベースにメンタル面の強化があったことは間違いない。

指導者としての転換をもたらしたメンタルトレーニング。

宮崎氏がそれほどメンタルトレーニングを重視するのはなぜか。そもそもの出会いは1995年に遡る。その年、宮崎氏はユニバーシアード福岡大会に出場する日本代表サッカーチームにスタッフとして初参加。日本開催ゆえ絶対優勝という目標が掲げられ、全国の大学をあげた総力戦が展開された。その中でメンタルトレーニングも導入され、第一人者である高妻容一氏(東海大学)もチームに加わった。このときの経験が宮崎氏に指導者としての転換をもたらした。

「それまでは、いかに技術や戦術に秀でるか、動ける体力をつけるためにどうするかということばかりにフォーカスしていました。心理面についてのアイデアは特になくて、とにかく強い心さえあればいいと、それくらいに考えていました」

メンタルトレーニングは宮崎氏にとって驚きの連続だった。

「高妻先生の指導で一番印象的だったのは、トレーニングが楽しくなくてどうするの? 試合を楽しめなくてどうして実力を発揮できるの?という言葉です。そんな発想をしたことがありませんでしたから新鮮でした。楽しくやっていいんだ、褒めていいんだ、その方が選手は伸びるんだと目から鱗が落ちました」

選手の成長を支えるのは、もっと上手くなりたい、もっと強くなりたいという内発的なモチベーションであり、その根源はスポーツを楽しいと思える気持ち。それを大前提にしたメンタル面強化のメソッドが確立している。日本代表チームでその効果を実感した宮崎氏は、自らが指導する青山学院大学サッカー部にもメンタルトレーニングを取り入れ、指導の考え方が変わったという。

「すごく楽になったんです。それまでは、きちんと伝えなきゃ、厳しく接しなきゃという気持ちが前面に出ていて無理をしていたんですね。それは、選手がサボるんじゃないか、手を抜くんじゃないかという性悪説に立っている。でもメンタルトレーニングを実践するようになって、選手を信じていいんだと思えるようになりました」

できたことを認め、努力したことを褒めるようになった。選手はポジティブになり、チームの雰囲気は明るくなったという。まだ実践していない選手や指導者にもメンタルトレーニングを勧める。

「誰もが気持ちが大事というけれど、じゃあ気持ちをどういうふうにつくればいいのかを答えられる人は少ないですよね。そういう人にぜひメンタルトレーニングを実践してほしいと思います。players firstの精神にも合致しているし、自分で考え、判断し、行動できる選手を育てられます」

メンタルトレーニングは、心理面の向上すなわち人間力の向上にも繋がる。1人の選手(人生)を預かる指導者の皆さんには、ぜひ導入を考えてもらいたいところだ。

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